「ほら、おいで。俺の元に帰っておいで」
優しい声音で誘う氷室さん。
私は、どうしたらいいんだろう。
「…っ、」
「君が俺の元に来れば、テツヤくんを助けてあげるよ」
「…え?」
氷室さんの口が弧を描いた。
「ほら、テツヤくん、死にそう」
私は急いでテツヤの方を見ると彼は、血だらけだった。
彼の刀の能力――守りの力も弱くなっている。
「ね?だったら、名前。これからする君の行動は決まっているよ」
「っ…」
「げほっ、名前っ」
私は、胸の前でぎゅっと手を握る。
もう、決まっている。
「…テツヤ、みんなにごめんねって言っておいて」
私は、無理やり笑顔をつくり氷室さんの元へと向かった。
「名前っ!!!!」
悲痛なテツヤの叫びが聞こえる。
ごめん。
「…やっと戻ってきたね、名前」
ぎゅうっと氷室さんに抱きしめられた。
ふわりと香る匂いに酔いしれそうだった。
「木吉、行くぞ」
「はいよっ!じゃーな、ひ弱な従者さんっ」
テツヤは、悔しそうに唇を噛みしめ、地面に倒れた。
「…、名前…」
消えていきそうな声に駆けつけたかったが、氷室さんの腕の中にいるため無理だった。
「じゃあね、テツヤくん。君に逢うことはもうないと願っているよ」
私たちはそのまま霧となって消えた。
「名前、名前」
その場には、黒子から流れ出る血と名前の名を壊れたように呼ぶ黒子の姿だけがあった。
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『……ねえ、テツヤ』
『名前、待ってくださいっ』
『私は、時々分からなくなるよ』
名前は、首にぶら下がっている群青の珠に触れた。
『この、選択が正しかったのか。―――君達を一生…永遠に縛る契約を結んでしまったことを』
そんなこと、僕たちから望んでしたことなのに。
あの幼かった名前がいつの間にかこんなにも大人びていた。
『絶対に僕たちは離れません。貴女を想っている限りずっと』
ああ、そのあと名前はなんて言ったんでしたっけ。
「…名前」