俺がお姫様に仕えるようになって一週間が経ったある日のことだった。
『名前様、名前様』
この家にいる使用人達は、異様なくらいお姫様を崇めている。
そのお姫様も嫌がらずに使用人たちと接していた。
『ねえ、なんでそんなに嫌がらないの?』
『……どこに嫌がらなければならない要素があるの?』
『だって、見え見えじゃん。あんなに取り入ろうとするの』
『あー…敦くんにはそう見えるのか』
いやいや、アレは誰が見てもそう見えるし。
『ねえ、敦くんは何で私のことが嫌いなの?』
『はあ?』
真っ直ぐに見つめられる。
その瞳が嫌いだった。
『…別に君のことをお兄さんは恨んでないよ』
パシン…
俺は、お姫様の言葉にキレて頬を叩いてしまった。
だから嫌いだ。
見透かしているような瞳が。
『ねえ、ほんとは敦くんも分かってるんじゃないの?』
『っ!!!うるさい!!ひねりつぶすよ!?』
俺には一人兄がいる。
その兄は病気がちで――才能がなかった。
その代わり、俺は才能があった。
だから俺が今、この松奏院家にいるのだ。
『ねえ、認めなよ。お兄さんのこと』
『っ!』
『ふふふ、敦くんっていい子だね』
涙が一粒流れ出ていた。
だから、嫌なんだ。
お姫様なんて。
俺の気持ちまで見透かしてしまうんだから。
『これからよろしくね?“敦”』
『しょうがないから守ってあげるよ、名前ちん』
そうして、俺は松奏院家の懐刀の仲間入りをしたのだ。