そこでまた消えた

「姫様」


静寂に征十郎の言葉が響いた。
涙がとめどなく流れ出る。


「…あの日から、私は自分の力を知った」


あの日、私が初めて人を殺した日から。


「そうだよ、姫様。あの日から姫様は、変わったんだ」


「名前……」


「ごめん、ごめん」


ただただ、謝ることしか出来なかった。


「名前、帰りましょう。もう僕たちは普通には暮らしていけなくなったんです」


「……うん、帰ろう」


私たちは松奏院家に帰ることになった。


――ここから変わっていくなんて思ってもいなかった。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−


「……姫さんを殺そうとするなんて馬鹿だねえ」


4人が去った後、ある一人の青年が霧のように出てきた。


「ああ、桜の匂いがする」


ふわりと香る匂いに少し愛しさを覚えた。


「ある意味こいつも、姫さんに殺してもらえたんだから幸せだっただろ」


青年は、爽やかに笑いそのまま、死体を蹴った。
ぐしゃりと鈍い音がした。


「だけどさ、姫さんに刀を向けるなんて許される行為ではねーよな」


べちゃ、ぐしゃ


死体の原形がなくなるほど蹴る。
返り血が飛ぼうとも、肉が肌に触れようとも気にしないように蹴りまくる青年。


「…はあ、こいつの血肉でしょうがねーけど食わせるか」


青年は、大きな手で脇にさしてある若竹色の刀をつかみ死体にぐさりと刺した。
すると、段々と血が吸い上げられていく。


「…ごめんな、『園川血盟』。ほんとは松奏院家の血が飲みたいだろうが下衆のこいつで我慢してくれ」


刀に向かって話す青年。
すると、ふわりと濃い桜の匂いがした。


「……いつ見ても悪趣味だよね」


「あれ?辰也様、どうしたんだい?」


「どうしたもこうしたもないよ。君たち『木吉班』は、心配だから来てみれば予想通りじゃないか。これで一体何人目?」


「ははは、しょうがないだろ。『園川血盟』が血を欲してるんだから」


左目が長い前髪で隠れた辰也様は、はあとため息をついた。


「木吉、しょうがなくはないでしょ。そうそうこっちも人材を刀のために殺されては困るよ」


しかも君は、笑顔で殺すから尚更ね。
そう言って辰也様は、木吉から目線を逸らした。


「――だけど、目的は達成されたぜ?『姫さんに"力"を目覚めさせる』ってのはな」


「それにしては、よくやったよ」


木吉は、死体から刀を抜き一度振り払う。
するとびちゃびちゃと血が弧を描いた。


「だったら、いいじゃん」


にこりと笑って言う木吉に食えないやつだなとおもう辰也だった。

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