運命に逆らいたかった

目の前の名も知らない青年がゆっくりと倒れていく。
顔に、全身にこびりついた血が嫌に私に現実を見せる。


「……な、んで」


前にも死体。
後ろにも死体。
前後から流れ出ている血のおかげで私が座っている場所は、血の海だ。


「どう、して…」


まだ熱がこもっている目に手を近づける。
その手にも血がついてる。
そして、触れた顔にもドロリとしたものがついてる。
それがなんなのかはわかっている。


「…どうして、私…」


ポロリと涙が流れた。


「姫様っ!!!」


「名前っ!」


「名前っち!!」


どこからか征十郎とテツヤと涼太の声がする。
ああ、こんなシーンどこかで見たことある気がする。


「…、どうしよう」


視界の片隅に赤色と空色と黄色が写った。
もう、振り向く力も残ってない。


「どうしよう、また、殺しちゃった」


掠れた私の声が血の海で響いた。


「っ、姫様っ!」


ぎゅうっ


私が返り血で汚れているにもかかわらず抱きしめてきた征十郎。
あの日もあの時もこうやって抱きしめてくれたね。


「……ねえ、いつから間違ってたのかな?」


「名前」


テツヤが静止の声をかける。
だけど止まらない。


「私が今日、屋敷を抜け出しちゃったこと?あの質問で否定したこと?…それとも私が存在していること?」


「名前っ」


ぎゅうっ


テツヤの声も征十郎が抱きしめている力も強くなった。


「……だから、生まれ変わろうなんて思っていなかったのに」


ポツリと溢れた言葉はもう戻せない。


「…それが運命なんスよ、名前っち」


涼太の言葉がすうっと心に入ってきたのだった。

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