――それは、桜が満開な季節だった。
「姫様…!!」
桜色の着物を着ている、姫様と呼ばれた少女。
胸元に紐でぶら下がっている群青色の珠がきらりと光った。
よくその桜色が似合っていたのを覚えている。
「―――幸せ、でした」
その少女は、涙を一粒流し、血を吐いて倒れた。
「っ!!姫様っ!!!」
少女は、1回も後ろを振り返らなかった。
倒れた少女を少年は、抱きしめた。
これでもかって位に強く。
離れないように抱きしめた。
自分の着物が少女の血で汚れるなんてことは気にしていなかった。
いや、むしろ少女の血が自分の着物につくことを嬉しく思っていた。
「嫌だ、嫌だ。消えないで。目の前からいなくならないで」
ぎゅうっとさっきよりも強く抱きしめた。
「姫様、置いてかないで。姫様っ、姫様っ」
何度も何度も少女の名前を呼ぶ。
すると二人の前に一人の青年が立った。
「……辰也、様」
長い前髪で左目が隠れていて、右目の下には泣きボクロがある。
綺麗な黒髪だった。
「――これで、名前は俺のだよ」
にやりと笑う青年。
少年から少女を奪い、歩き出した。
「…っ!!やめろ!!」
「君が、俺にたてつくの?君は、ただの僕(しもべ)だろう?」
「っ、」
青年の言ったとおりだった。
少年は、ただの僕。
そして青年は、この国を動かす帝。
逆らうことなんて出来るはずがない。
「それじゃあ、また逢えたら逢おうね―**くん」
少女を抱き、歩き出す青年の背中を黙って見ていることしか出来なかった。
自然と唇を噛む。
「―なんで、見守ることしか出来ないんだ…」
ただ、少女の笑顔を守りたかっただけなのに。
ただ、少女を愛したかっただけなのに。
『来世で逢いませう』