意識が沈んでゆく

夕食が終わり、胃を休めているときだった。


「…まだ、大輝と真太郎は帰って来ないのか」


はあ、とため息をつきながら征十郎は言った。


「確かに、二人とも遅いですね」


「もう、夜の9時っスよ!?遅すぎるっスね」


時計を見ると9時を回ってた。
…敦、今夕飯を食べたばっかりなのにお菓子食べてるよ。


「…ねえ、明日、学校行ってもいい?」


私がそう口にするとみんなの動きが止まった。
かろうじて敦のお菓子を食べている音は聞こえる。
え、みんななんで固まってるの?
私、言っちゃいけないこと言った?
だって、私が倒れてから二日経ったし…
そろそろ学校に行かないとだめでしょ。
さつきちゃんにも会いたいし…


「――ダメだよ」


征十郎が冷たく言い放った。


「…っ、どうして!!」


「姫様は、もうこの松奏院家の後継者だ。そして僕たちの主でもある。この屋敷の外に出たらいろんなやつに狙われる。だから、ダメだよ」


今日がいい例だろ?
そう征十郎が言ってきて、私は言葉に詰まった。
確かに、私一人じゃ簡単に捕らえられてしまう。


「…それにテツヤも言ってただろう?姫様は僕らの隣に傍にいてくれればいいんだって」


「っ、だけど」


「ダメだよ。離れるなんて許さない」


征十郎は、身体を乗り出し私のあごを綺麗な細い指で掴んで言った。
ぶるりと寒気がした。


「…じゃあ、もう寝たほうがいい姫様。疲れただろう?」


「…俺が送っていくっスよ」


私は、涼太に連れられて自室へと向かった。


「…ほんとは名前っちと一緒に寝たいとこっスけど、会議があるから無理なんスよ」


おやすみっス、と頬にちゅっとキスをして涼太は部屋から出て行った。


「今日は、いろんなことがあったなー」


段々とまぶたが落ちていた。


「…早く、思い出したいな」


時々見せるみんなの悲しい表情が忘れられない。
そう思って、私は意識を手放した。


「―――いい夢を」
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