深青の海に堕ちてゆく

俺に生きる意味を与えてくれたのは、たった一人の少女だった。



『……ねえ、君、そんなところにいると死んじゃうよ?』


『…別に死んでもいい。親も兄弟もいない。住むところもない』


『…生きることを諦めちゃうの?』


『諦めたんじゃない。そうせざる負えないだけなんだよ』


その少女は、俺と同じくらいの歳で、着物からしてどこかの裕福の家の子なのだろうと思った。
綺麗な黒髪に綺麗な漆黒の瞳に吸い込まれそうになる。


『だったら、君に生きる意味を与えようか?』


『…はあ?』


『だから、君に生きる意味を与えてあげるって言ってんの』


先ほどまで立っていた少女は、俺と同じ目線になるべくしゃがむ。


『…生きる、意味?』


『そう。生きる意味。――君に力をあげるから、私を守ってくれない?』


少女は、笑って俺に言った。
その少女の笑顔がまぶしかったのを覚えている。


『だれが、そんなもんに乗るかよっ』


『…あれ?断っちゃう?いいじゃない、その命いらないんでしょ?』


『……』


『だったら、私に頂戴?私を命がけで守ってよ』


『…はあ、いいぜ。守ってやる』


少女の言葉に折れた。
だって、何でも見透かしていそうな瞳が怖かったのだ。


『そう言うと思ってたんだ!よかった!私は、松奏院名前って言うの。君は?』


少女は、俺の手をとって立ち上がった。


『――俺は、青峰大輝』


『大輝ね。いい名前だね。君に合ってる』


少女が…名前が嬉しそうに笑って言うから。
そんなこと言われたのが初めてで。
繋がれた手が嬉しくて。
ガラにもなく、照れてしまった。


この日、俺は生きる意味を与えてもらったのだ。
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