どんなに願っても、変えられないものはあるのだ。
そんなこと、自分が嫌というほど分かっている。
ずっとずっと分かっている。
「…そんなこと、分かってますよ」
ポツリとテツヤの口からつぶやかれた。
「どんなに思っても願っても手に入らないんですから」
「……そうだよ、テツヤくん。恨むなら君の産まれた黒子家を恨め」
黒子家――――
代々松奏院家に仕える家。
この地位は、変わらない。
「…それでも、僕は黒子家に産まれたことを感謝しています」
「…何故?」
「…一番名前の近くにいれますから」
テツヤがその言葉を発した刹那、氷室さんの刀を持つ手に力が入った。
「ほんと、君って昔から俺をいらつかせるよね」
「ありがとうございます」
「…だからさ、死んでよ。テツヤくん」
ニコリと笑って刀を振り落とす氷室さん。
私と涼太は、テツヤを助けに行こうと動き出す。
だけど、氷室さんのほうが早い。
「叢雲」
凛とした声が響いた。
カキンッ
刀同士がぶつかり合う音が鳴り響いた。
「………僕の仲間が迷惑かけたようですね、辰也様」
「…っ、赤司!!」
そこに立っていたのは、着物がよく似合う征十郎だった。
彼の刀が炎を帯びて氷室さんの刀と競り合っている。
「……お久しぶりですね、辰也様」
「……そうだね」
氷室さんは、刀をおろして、鞘へと仕舞う。
その動作は、流れるように綺麗だった。
「君が来たんじゃ面白くない。俺はそろそろお暇するよ」
氷室さんは、振り返り涼太に抱きしめられている私へと視線を向ける。
「…怖がらせちゃったね。ごめんね名前。今度迎に来るから。じゃあね」
そう言って彼は、霧のごとくその場からすうっと消えていった。