二重仮面を被る青年

二人の間へと飛び出す。


「っ!!名前っち!?」


「名前!?」


ギリギリのところで涼太の攻撃が止まった。


「なんで、飛び出して来たんスか!?」


「……何故だか分からないけど、涼太の攻撃は、絶対この人には効かないと思って…」


「!?」


ちらりと氷室さんを見ると少し驚いていた。


「…へえ、覚えてるんだ。完全に記憶が無くなった訳じゃないんだね」


「……帰ってください」


「…」


「帰ってください、氷室さん」


「…まさか、君が俺に命令するとはね。舐められたもんだ」


氷室さんの表情が無表情になる。
声も低くなった。
私に向かって手を伸ばす。
ぎゅっと、涼太が私を抱きしめた。
私に氷室さんの手が触れそうな時だった。


シュッ…


風を切る音が聞こえた。


「……お久しぶりですね、辰也様」


「そうだね。約1000年ぶりかな…テツヤくん」


氷室さんの背中に刀を突きつけているテツヤの姿があった。


「それで、こんな刺激的な再会は嫌だなあー。刀をおろしてくれない?」


「あなたの手をおろしてくれるならおろしますよ。あなたが名前に触れることは許さない」


氷室さんは、一瞬テツヤを睨みつけて仕方なく手を下ろした。
するとテツヤも刀をおろす。
仕舞いはしないが。


「…まさか、君に見つかるとは思わなかったよ」


「…そうですか。なら、もう僕に見つからないようにあの屋敷に閉じこもっててください」


「あはは、何言ってるの?テツヤくん。あの屋敷に誰が戻るのさ」


「なら、この松奏院家に近づかないでください」


穏やかに話していた氷室さんの雰囲気がガラリと変わった。


ビュッ


どこから出したか分からない刀が今、テツヤの首元にあてがわれている。
もう、スレスレだ。


「黒子っち!!」


「っ!テツヤ!」


冷や汗が垂れる。


「…下僕という卑しい身分の分際で俺に命令するな」


冷酷な声で告げる氷室さん。


「…っ、」


テツヤも汗が流れる。


「お前らの地位なんてあってもないようなものだ」


その声、表情は、今までの氷室さんと似てもにつかなかった。
[*prev] [top] [next#]