桜の元へ向かおうと思って歩き出して半刻。
私は、大事なことに気づいた。
『……私、道知らないじゃん!!!』
外の世界に出たことないのに、桜までに道が分かるはずがないじゃん!!
周りを見ると、そこは、どこかも分からない土地だった。
『どこ、ここ…』
人通りの少ない道。
誰の気配もない。
『…ふえっ、』
涙が出て来た。
そのとき、ふと人の気配を感じた。
『お嬢ちゃん。こんなところで何泣いてんだい?』
『おいおい、こいつは上物じゃねーか。こんないい着物着てるぜぇ』
数人の男たちが集まってきた。
男達は、みすぼらしい格好をしていて下品に笑う。
彼らの手が私に触れそうなときだった。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
『姫様!!!』
ある山中の途中で、ある香りがした。
姫様の桜の匂いと、むせ返る血の香り。
段々進むにつれどちらの香りも強くなってきた。
そこで、ただ一人立つ姫様を見つけた。
よく見てみると姫様の周りには、おびただしいほどの血を流した男達数人が倒れていた。
『…っ!!』
俺の嫌な予感が当たらないでほしいと願った。
だけど、目の前の現実が本当だと突きつける。
この場に似つかわしくないと思いつつも、返り血が着物に着いている姫様が今にも消えてしまいそうなほど儚く、そして綺麗だった。
『姫様!!』
『……ああ、征十郎?』
振り返った姫様の瞳は涙をためていて、今にも零れ落ちそうだった。
『姫様っ!!』
ぎゅうっ
彼女を抱きしめる。
『ねえ、征十郎どうしよう。私、殺しちゃった。私、初めて人を殺しちゃった…』
涙がついに零れ落ちた。
返り血が自分の着物につこうが関係ない。
俺はただ、今にも消えてしまいそうな彼女を抱きしめていたかった。
『大丈夫ですよ。俺が俺が、ずっと貴女の傍にいますから…』
『征、十郎…』
『俺がずっと貴女を守りますから。ずっと、ずっと…!!』
姫様は、だらんと下げていた腕を俺の背中に回す。
そして、ぎゅうと力強く抱きしめてきた。
『もう、絶対姫様の傍から離れませんから……』
この小さくて脆く、すぐに壊れてしまいそうな彼女をただただ、抱きしめているしか出来なかった。