紅の過去に染めて



『……へ?私に従者?』


この村にある大きな桜を見ようと縁側に座っていると、お父様が話しかけてきた。


『そうだ。お前もこの松奏院家の正式な後継者だ。だから従者をつけようと思ってな』


『別にいいよ。私、いらなーい』


『……それはだめだ。一族の中でもお前は“特別”なんだからな』


お父様に頭を撫でられる。
だけど、私には従者なんて要らない。
私は、一人で生きていって見せるんだから!!!


‐‐‐‐‐‐‐


『名前』


いつものように縁側で座って桜を見ているときだった。
お父様に話しかけられ、そっちのほうへと向く。


『お前の従者になる、赤司征十郎くんだ』


赤の髪に赤と黄の色違いの目を持つ彼は、赤司征十郎と言うらしい。
彼は、ぺこりと私に向かってお辞儀をした。


『…、お父様。私には従者はいらないって言ったはずだけど』


『だから、だめだと言っただろう。―征十郎くんごめんな。こんな娘の世話をよろしく頼むぞ』


お父様は、彼の頭にぽんと手を乗せて戻っていった。
彼の灰色の着物が何故だか無性に悲しく感じた。


『名前様、どうかよろしくお願いします』


棒読み、無気力な彼の言動に腹が立ち、ふんと無視してやった。


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐


それから、数日経ったある日のことだった。
征十郎と家族、それに警備の人たちの視界を潜り抜け、外の世界へと抜け出してみた。


『わー。塀の外ってこんな感じなんだー』


生まれてから一度も塀の外へ出たことなんてなかった。
だから、すごいわくわくしている。


『あの、いつも見てる桜を間近で見ようーっと』


私は、着物を引きずりながら桜への道へ歩き出した。


‐‐‐‐‐‐‐


『名前がいない!?』


そのとき、松奏院家は騒がしくなっていた。
忽然と姿を消した姫君を探し回っている。


『(……あの、お転婆姫のことだから外界のほうへと行ったんだろう…!!)』


赤司は思い、居てもたってもいられず、外の世界へと飛び出した。


『…姫様ー!?どこにいますかー!?』


こんなときになって思うなんて。
彼は、ぐっと唇を噛みしめた。
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