紅の珠の妖しい光

あの日見た、桜が私の運命を狂わせたのかもしれない――


『――あれ?迷子?』


『……へ?』


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「……松奏院家が不思議な力を持つ一族だと教えてもらいました」


私は、真っ直ぐ征十郎を見る。


「それで?」


「私には、そんな力ありません」


きっぱりと告げる。
すると、征十郎は急に立ち私のほうへと歩き出した。
だが、私の1mほど前で止まり、腰に差してある紅の刀へと手を近づけた。
その瞬間、目にも留まらぬ速さで刀を抜く。


「…っ」


刀の先は、私の鼻すれすれで止まった。


「赤司くん!?」


「赤司、てめぇ!名前に何、刀向けてんだよ!?」


外野の声に耳を傾けようとしない彼のオッドアイが冷たく私に突き刺さる。


「……私を、切りますか」


「……」


彼の瞳がすうっと細められる。


「……だけど、征十郎。貴方は私を切れないはずだ」


「…っ!」


細められていた彼の瞳が見開かれた。
何故だか知らないけれど、彼は絶対に私を切れない。
心の底でそんな確信がある。


「だから、早く引っ込めて」


「……はあ。姫様の勝ちだ」


彼は、ため息をついて刀を鞘へと戻した。
今、気づいたが柄の先には紅の珠が紐でつながれている。


「(…ああ、それ、ずっとつけていてくれてるんだ…)」


……。
ちょっと待って。
私は、初めてその珠を見たはずなのに。
なんで私が彼にあげた風に感じたんだろう。


「…姫様?」


「……そ、の珠…」


「え?」


彼女が見ている柄の紅の珠に眼を向けた。


「…私、私……」


姫様の様子が変だ。
みんなもどこかしらそんな雰囲気を感じ取ったらしく、慌てている。


「姫様!?大丈夫か!?」


「……(どうしよう、私……みんなのこと知ってるんだ)」


そう思って、意識がまどろんだ。

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