ただ、忘れただけ

『ねえ、テツヤ』


『なんですか、名前』


『私、君達を見つけて良かったよ。だから、ずっとずっと私の傍にいてね』


『当たり前じゃないですか。どんなときも貴女の傍にいますよ』


『えへへ、ありがとうテツヤ』


そう言って照れたように笑う彼女が心から愛しく思った。


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あ、誰かの温もりを感じる。
…誰かが私の頭をなでてる?


「……」


「あ、起きましたか名前」


目の前には、天井と空色の髪が。


「!!!ええええ!?」


私は、勢いよく飛び起きる。
ここどこ!?
畳!?


「…落ち着いてください、名前。ここは、松奏院家の屋敷ですよ」


「松奏院!?私、帰りますね!」


私は立ち上がろうとすると、空色の彼に腕を引っ張られた。


「……この家のことも覚えていないんですね」


哀しそうに笑う彼に私は、掌を頬に寄せた。


「…っ、え?」


彼は、目を見開いた。


「あ、ごめんなさい!何故だか知らないけどあなたにそんな顔させたくなくて…手が勝手に動いちゃった」


「……本当に、忘れただけなんですね」


「ん?」


「いえ、僕は黒子テツヤです。テツヤとお呼びください」


「テツ、ヤ…?」


「はい」


名前を呼ぶと彼は嬉しそうに笑った。


「では、僕は名前が起きたことを伝えに行ってきますのでまだ、寝ててください」


彼は、頭を一撫でしてからふすまを開けて出て行った。


「…彼らは、私のことを松奏院家のお姫様だと思っているけれど…」


私は、違う。
だって、孤児だし。
不思議な力なんてない。
だけど、何故か懐かしいと思う自分がいた。

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