君の食べる姿が好きだった。
君の横顔が好きだった。
君と出会ったのは、駅近くの小さな喫茶店だった。
そこは、元々俺のお気に入りの店で。
そこの珈琲セットを頼むのが当たり前だった。
カランコロン…
「いらっしゃいませー。ああ、氷室くんか」
「こんにちは、マスター。いつもの珈琲セットで」
「かしこまりました」
俺がいつも座る隣の席に、胸あたりできれいなストレートの髪の女性が座っていた。
「すみません、隣よろしいですか?」
「はい。どうぞ」
その女性は、食べていた手を止めにこりと笑って了承してくれた。
珈琲セットが届くまで、視界の片隅でおいしそうに食べる女性を観察していた。
「っ、あ、あの何か…」
「あ、いや。おいしそうに食べるなと思いまして」
俺の視線に気づいたのか、少し顔を赤らめて言ってきた。
「ふふ、ありがとうございます」
その女性は、嬉しそうに笑ってお礼を言ってきた。
その表情にどきりと心臓が高鳴ったのはおいといて。
それから、俺と彼女は、話しながら楽しんだ。
それからも俺が行くたびに彼女がいて、その度に話すようになった。
「(…それが今ではなー。付き合って5年だもんなー)ほら、口についてるよ、名前」
「え、あっ!ありがと、辰也」
俺が一目惚れしたときも、今も。
彼女がここにいるときは、必ずパンケーキを食べている。
「そのパンケーキおいしい?」
「もう、絶品!!辰也も食べてみればいいのよ」
美味しそうにパンケーキを頬張る名前。
横顔が幸せそうで。
俺は、名前を好きになってよかったと思った。
「はい、珈琲セット」
「あ、ありがとうございます」
淹れたての珈琲。
飲もうと思ったとき、名前が俺を凝視してるのに気づいた。
「なに、名前」
「いや、辰也っていつも珈琲セットだなと思って」
「まあ、名前の言葉を借りて言うと"絶品"だからかな」
「ふーん」
名前は、興味無さそうに返事をしてまたパンケーキを食べる。
俺は、その食べている横顔を見つめる。
「…食べづらいんだけど」
「ねえ、名前」
「何よ」
「I love you」
「なっ…!!」
真っ赤な顔になる名前。
口、パクパクしてるよ。
「名前、俺と結婚してください」
「ぶっふっ!!」
「ふふふ」
吹き出す名前に穏やかに笑うマスター。
俺は、名前の左手に指輪をはめる。
うん、ぴったりだね。
「ここで出会ってここで告白して恋人になって、そしたらやっぱり次は、プロポーズかなと思ってさ」
「……その思い出すべて、辰也は珈琲飲んでるし、私はパンケーキ食べてるんだけど…」
「だって、俺は名前のパンケーキを食べている横顔に惚れたんだからね。それで、返事は?」
名前は、真っ赤な顔で笑い、
「世界一の幸せ者にしてよね」
と言った。
それに、俺はもちろんと答えた。
当たり前だよ、名前。
俺たち二人は、これからもここの喫茶店に来て、俺は珈琲セットを頼み、名前は、パンケーキを頼むのだろう。
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宇宙飛行士様に提出。