と或る夏の青春群像

※意味不明なお話
ある意味、8月某日の話。の続きっぽい



ずっとずっと君だけを思っていた。
君にまた会いたいとずっと思っていた。


「―――っはは、もう名前っちはいないのも当然なのに」


未だに彼女の笑顔が頭から消えない。
離れてくれない。


「ああ、俺が名前っちのところに行けばいいんスかね…」


俺は服と携帯を持ち、外へと繰り出した。


「もう、逢いたくて逢いたくて。逢いたくて仕方ないんスよ」


いつの間にかたどり着いたのは、名前っちが死んだ場所。


「ここに来れば、名前っちに会えるっスかね…」


暑い暑い、夏の日だった。
今日も蒸し暑い。
どこかで蝉が鳴いている。


「名前っち、なんでなんで死んだんスか…!なんで俺をおいていったんスか!なんでっ!!」


ここに来れば、君の面影が見れるかと思った。
また、君が…


「名前っちに、また『涼太』って呼ばれたいっスよ…名前を呼んで欲しいっスよ…!!」


思い出されるのは、いつかの名前っちとの思い出ばかりで。
その思い出に手を伸ばしたけれども、擦れて消えていくだけ。


「俺ね、みんなにね…黒子っちにも赤司っちにも青峰っちにも緑間っちにも紫原っちにも桃っちにもね、名前っちのことを忘れろなんて言われるんス。無理なのに…」


忘れるなんて無理なのに。
名前っちが死んで、数年経つのに未だに君の色が消えない。
消え褪せなくて、鮮明だ。


「名前っち、逢いたいよっ!!また、逢いたい…!!」


涙が溢れて止まらなくて、顔を手で覆う。
その時だった。


「―――――ごめんね、」


「――え、」


涙が一瞬止まった気がした。


「死んじゃった」


目の前にあの頃の姿のままの名前っちがいた。
相変わらず、暑い夏で遠くで蝉が鳴いている。
でも、その一瞬だけ時が止まり音がなくなった気がした。


「え、名前っち…」


「――涼太、ごめんね」


名前っちの匂いが、微かに俺のほうまで匂う。


「ねえ、さようならしよう?」


「ど、ういう意味…っスか?」


あの頃のように名前っちは笑っていた。


「もう、私に縋らなくていいよ。過去の私に縋らないで」


「え?意味が分からないっスよ?往かないでよ。俺、俺…」


「涼太」


耳を塞ごうとする俺の耳にはっきりと聞こえた。


「もう、現実を見よう?私は――死んだの」


嫌と言うほどはっきりと聞こえた。
そして、俺の心にドスンと重く残った。


「あ、名前っち…」


目の前には、あの頃と変わらない身長で服装の名前っちが窓辺に立っている。
夕焼けが眩しい。


「ねえ、笑ってよ。涼太」


「寂しいこと、言わないでくださいっス…」


「…うん、でも笑ってよ」


また、涙が溢れてきた。


「…っ、しょうがないっスね…」


今できる精一杯の笑顔をした。


「…えへへ、」


俺の笑顔を見て、名前っちは嬉しそうに笑った。
その笑顔は、俺の一番好きだった笑顔だった。


「―――っ!名前っち!!!」


次の瞬間、名前っちの身体は外に投げ出されていて。
笑顔で逆さまに落ちていく。


「涼太、ばいばい」


そんなことを言いながら落ちていく名前っちに急いで窓に寄る。
でもそこには、名前っちの姿はどこにもない。


「――、名前っち…」


空しく残るのは、名前っちの笑顔に匂い。
そして―――残酷で温かな言葉だった。


「…あ、蜩の鳴き声」


窓から見える景色は、いつもの校庭の夕焼け空。
そして遠くから聞こえる蝉の鳴き声が聞こえてくるだけだった。
でも、何故か不思議と心が軽くなったような気がした。



BGM:ロスタイムメモリー/じん(自然の敵P)

title by瑠璃