どうせ曲に踊らされただけ

「…なんでなのですか」


天気のいい昼間の太陽が差し込む部屋でトキヤは、窓にもたれかかりながら私に言ってきた。


「急にどうしたの、私が何って聞きたいよ」


私は、楽譜を見つめていた目をトキヤに向ける。


「…なんで、あなたの曲は人を引きつけるのですか」


何を聞くと思えば、そんなことを。


「…いや、私の曲ってよりも歌ってるのがトキヤだからだよ」


「そんなことありません。アイドルは、曲があるからこそ生きていけるんです」


ふわりと、トキヤの匂いがしたと思ったら首にほどよく筋肉のついた腕が回されていた。


「ちょ、トキヤ!?」


「名前の作る曲。名前の指先で奏でられるメロディ。全てが私を含めたくさんの人を魅了します」


「大袈裟、だよ」


そんな曲を作れた覚えはない。
トキヤの言ってることは大袈裟すぎる。


「…大袈裟、ではありませんよ。だからこうしてみなさんに人気の曲を作れているのでしょう?」


トキヤの腕がきつくなる。
目の前には、作りかけのメロディの書かれた楽譜がある。


「――嫉妬してます」


「え?」


「もう、誰にも見つからないよう閉じ込めたくなるくらい嫉妬してます」


トキヤの吐息が耳にかかる。
そして、いつもよりも少し低い声だ。


「……だから、私はあなたが」


その続きは、聞こえなかった。
いや、聞かないないようにしたと言った方が正しいかもしれない。
だって、私はトキヤの口を両手で塞いだのだ。


「…言わないで」


目を見開いて私を見るトキヤ。
私は、真っ直ぐにトキヤを見つめられずにいた。


「お願いだから、言わないで」


「…名前」


「私は、トキヤのことなんて嫌いだもの」


私はずるい女だ。
トキヤからはたくさんの愛をもらっているのに、私は返していない。


「…名前、それでも私は」


トキヤは、私の手首を掴み離す。


「あなたのことを愛しているんですよ」


かみつくように唇を合わせられた。


「『嫌い』…?はっ、そんなの関係ありません。好きにさせればいいんですからね」


あなたの曲のように、そう付け足されもう一度強引にキスをされた。


「……トキヤ、あなたも私の曲に踊らされただけよ」


「そう、かもですね」


優しく微笑むトキヤに、私の心臓がズキンと痛んだ気がした。