近付いて遠ざかる (1/4)
うげぇ…つ、疲れた。
いや、そりゃあ練習なんだから楽な訳はないんだけどね?さすがにプロらしい人とこんだけ打ち合えば疲れるよ。
しかも容赦ないからね。
いや、マジでなんなのこの人。
「ほな、休憩しよか。ほれ、ドリンク飲み」
「あ、あざっす」
「なんちゅーか、自分ホンマにオモロイなぁ。せやから、体力ないんがホンマに勿体ないわぁ」
「は、はぁ…」
「あんまり無理させてもアレやし、今日はもう止めやな」
「はやっ!」
「少しでも打ち合えればええねん。それに練習したからってシンクロ出来る訳ちゃうし」
と、午後一でチャラチャラさんこと種ヶ島さんと練習をしていたんだけど…まさかの打ち合いを10分程度しただけで終わった!
いや、確かにめちゃくちゃ疲れたけども…それでいいのか。一応、練習は1時間って話だったはずなんだが。
とりあえず、ヘラヘラと笑っている種ヶ島さんを無視して貰ったドリンクを飲みながら息を整える。
それにしてもこの人がプロかぁ…プロなのかぁ。いや、普通に上手いけど…ムカつくぐらい余裕そうだし、全然本気出して無さそうだし。
「なんや不満そうやなぁ」
「いや、別に」
「俺が本気出さへんから気分悪いんやろ?」
「それがわかってて聞く辺りさすがですね」
「今日は、様子見しただけで後で見せたるで?それにシンクロする相手に不信感持たれたら意味ないやん?」
「そういうもんなんですか?」
「そりゃそうやろ。相手を信頼しなきゃシンクロなんで出来ひんよ?」
いや、あたしはシンクロについてわりとマジで何も知らないからね。ましてや、見た事はあっても自分がシンクロとかした事ないし。
でもそりゃあそうか。ダブルス自体、パートナーを信頼してなきゃ成り立たないし。
それになんだかんだで種ヶ島さんは、あたしとシンクロする気あるんだね。いや、なかったらこんな練習してないけども。
・・・・・。
ならあたしもいつまでも変に警戒してないで、もう少しまともに接するべきかな。一応、コーチ達からの指示だし。
「最初の内は、俺が璃亜に合わせたる。それからが本番やなぁ」
「頑張ります」
「?なんや急に素直やな」
「やるならちゃんとシンクロしたいし。あんたがテニスが上手いのはわかってるし、足を引っ張るのはあたしだから。こうしろとか言ってくれれば努力する」
「ははっ、可愛えやっちゃなぁ。せやけど、気張ってもなんもいい事あらへんし。いつも通りでええで?まぁ、強いて言んやったら名前で呼んで欲しいわぁ」
あたしがわりとマジで真剣に話してるのにケラケラと笑いながらあたしの頭を撫でる種ヶ島さんにイラッとしつつ、確かにシンクロをするパートナーに変に気を遣うのもおかしいか。
そしてあたしがこの人を名前で呼ぶ必要があるんだろうかと不思議に思いつつ、なんて呼べばいいのかドリンクを飲みながら考えた。
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