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…言葉を失うとは、まさにこの事を言うのか。
決して跡部くんは、弱くない。
むしろ、本気じゃないにしろあたしは跡部くんと打った事があるからわかる。
跡部くんが弱いんじゃなくて…幸村くんが強過ぎるんだ。
幸村くんには、氷の世界は効かない。お前に死角なんて見せないよ?と言わんばかりの笑顔で打ち返す幸村くん。
でも跡部くんも決して諦めはしない。幸村くんもそれが嬉しいのか楽しそうに笑っていてちょっと泣きそうになる。
「幸村のヤツ、楽しそうじゃのぅ」
「そうですね。あんなに楽しそうにテニスをしている幸村くんは、初めてかもしれません」
「そうなの?」
「幸村は、中学ん時から色んなもんを1人で背負っとったからの。テニスは勝つもので楽しむ事なんて出来んかったんじゃよ」
「そんな幸村くんがあぁして楽しそうにテニスを出来る様になったのは…楠木さん、貴女のお陰だと私達は思っています」
確かに…幸村くんは、病気になってテニスを1度離れたりしたとは聞いたけど…それがあたしになんの関係があるんだ?
ずっと常勝立海大を掲げていたのも知ってる。でもそれは、今も同じはずだ。常に勝利を目指し、負ける事は許されない。
それが立海テニス部だって幸村くんと真田くんに言われたから。
「お前さんが楽しそうにテニスをしてるのを見て、色々と思うところがあったんじゃよ」
「えぇ…勝つ事も大事ですが、まずテニスを楽しんでいなかったな…と」
「…じゃあ幸村くんは、今までずっとテニスを楽しんでなかったって事?」
「常勝を掲げてると楽しむ余裕なんてなかったんじゃよ。勝つのは当たり前、負ければ批難される…そんな状況で頑張ってたんじゃ、幸村は」
だから、あんなに楽しそうにテニスをする幸村は初めてなんじゃよ…と少しだけ悲しそうな仁王に胸が痛む。
…そっか。
楽しんでなかったんじゃなくて、楽しめなかったんだね。
ずっと、色んな重圧を感じながら必死に戦ってたから。だから、今…あんなに楽しそうなんだ。
「ゲームセット!ウォンバイ立海大付属、幸村6-4!」
「ふふっ、楽しかったよ」
「クソッ…今回は、負けたが次は必ず俺様率いる氷帝がっ…」
「……幸村くーーんっ!!」
「…ふふっ、また随分と面白い顔してるね。鼻水拭きなよ」
「うぐっ…お、おめでどうっ…!」
「もう少し可愛く言えないの?全く…そんなに泣かないでよ。俺が跡部なんかに負ける訳ないんだから」
「アーン!?」
幸村くんの勝利したと同時に駆け出したあたしは、それはもう号泣でした。
そんなあたしを幸村くんは、嬉しそう笑うと頭を撫でてくれた。そしてすぐに後ろから赤也が飛び付いて来て、なんかデジャヴだった。
(赤也、泣ぎ過ぎぃぃ!)
(な゙っ、璃亜先輩ごぞっ!!)
(いいから鼻水拭けよ…ほら)
(ジャッカルぐぅぅ〜ん!)
(ジャッカルぜんばぁぁい!)
(あいつ等、うるせぇ…)
(そういうブンちゃんも涙目じゃよ?)
(う、うるせぇっ!!)
(そういう仁王くんもですけどね)
(いい試合だったな、精市)
(うむ、さすがだった)
(ふふっ、当たり前だろ)
(本当にお疲れ様…)
(あれ?羽川まで泣いてるの?珍しいね)
(…うるさいわね)
(幸村ぐぅぅん!!)
(幸村ぶちょぉぉ!!)
(赤也と璃亜は、ちょっとうるさい)
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