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幸村の一言で始まったマネージャーを掛けたワンゲームマッチだったんじゃが…。
「ちょ、あいつ一体なんなんだよぃ…」
「…赤也の片足スプリットステップを真似したのか?」
「へぇ…面白い。羽川さん、本当に楠木さんはテニス初めてなんだよね?」
「えぇ、初めてのはずよ」
「では、何故彼女は片足スプリットステップが出来るんですか?」
楠木のせいで空気が変わった。あの赤也の片足スプリットステップを楠木がやってみせたからじゃ。
しかも動きこそ素人じゃが下手ではない。むしろ、下手なテニス部員より上手いレベルぜよ。
そんな楠木と赤也の試合を幸村は、楽しそうに見ている。赤也は、何がなんだかといった様子ではあるが一点も落とさずにいる。
「璃亜は、長時間運動が出来ないだけで運動神経は抜群にいいの」
「いや、そういう問題じゃないと思うんじゃが。運動神経が良いとしてもあれは見てすぐに出来るもんじゃなか」
「璃亜は、小さい頃からずっとバスケをしていて…小学生の時には中学からスカウトがくらいには有名なバスケ選手だったのよ」
バスケ…ねぇ。
羽川は、なかなか勝負が決まらない試合を見ながら璃亜がその時から得意だったのが"模倣"と言うと少し目を伏せた。
身体能力が高かった楠木は、色んな選手の技を模倣して最終的に独自のスタイルに変えてしまうらしい。
だから1回見ただけで模倣が出来ると説明した。
最後に病気になってからは、バスケを始めとしたスポーツを一切やらなくなったという事を悲しそうに語った。
「あれだけ動けて才能もあるのに長時間運動が出来ない。さぞ、辛いでしょうね…」
「…あぁ、俺にはそれが痛いほどよくわかるよ」
「でもなんか璃亜、楽しそうだな」
「そうじゃの」
「…しかし、そろそろ時間だ。これ以上の長期戦は楠木の体に負担が掛かる」
そう、長期戦は出来ない。
しかしそれでも赤也は、楽しそうにボールを追い掛ける楠木を見て攻めきれずにいる。
本当に楽しいんじゃろうな。
慣れないラケットを両手で掴み、必死に赤也のボールを打ち返している楠木に誰もがもうおしまいだと言えずただ沈黙が流れる。
「…璃亜、もう時間よ。諦めてやめなさい」
「…あーマジ?まだイケそうなんだけどなぁー…とっ!じゃ、これで終わりにする…っよ!」
「なっ…ちょ、楠木先輩っ!?」
「あちゃー…アウトかぁ。まぁ、仕方ないか。てか、切原くんホントに上手いね」
さすがの俺も思わず目を見開いた。
しかしそんなのは、お構い無しといった様子でペコリと赤也に頭を下げると負けちゃった〜と羽川に笑い掛けながらベンチに戻ってきた。
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