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何の躊躇もなくわたしを抱き締める様にして、ガチャガチャと手錠を弄っている彼からふわりと甘い匂いがした。
というか、なんで真正面から? 普通に横から外した方が鍵穴とか見えるんじゃないかな。それにわたし的にも、かなり困るんですけど。
見知らぬ男に真正面から普通に抱き付かれてるとか、色々と辛いというか。普通に距離が近過ぎて…怖いやらなんやらで酷く心臓がうるさい。
「んー、こうかな。あ、もうちょっと待ってねー」
「なんで真正面からやってんだ、あいつ」
「原だからじゃない?」
「まぁ、女好きだからな」
「古橋の言い方に草」
「はい、外れた。で、立ってもらって〜はい、逮捕しますねー」
「……一応、助けてくれてありがとう」
「手錠掛けたのに何故か感謝されて草。まっ、ポケットとかにも何も入ってなかったし、あんた無害そうだけど一応ね」
ずっと座りっぱなしだったせいか、腰やお尻が痛いけど…まずは不本意ながらお礼を言う。一応、動ける様にして貰った訳だし。まぁ、手は普通に手錠が付いてるけど…歩けるからね。
そして彼は、わたしの持ち物チェックの為にわざと真正面から鍵を外したらしいが…残念な事にわたしは何も持っていないらしい。
何も持ってない上に拘束されてるとか、どんなイジメだ。わたしのスマホ…どこいっちゃったんだろう。まだローン残ってたのにな…とか軽く現実逃避をしていた。
「そういえば、あんた名前は? 制服を見る限り××校っぽいけど」
「××高校2年、沢村奈々」
「へぇ、タメじゃん。ちなみに俺等の事、知ってたり?」
「いや全然知りませんけど」
「……えーと、花宮? これかなり不味くない?」
「いや、まだ判断材料が足りねぇ。おい、お前も付いて来い。逃げ出したり下手な動きをしたら殺す」
サラリと恐ろしい事を言う彼に渋々ながら頷く。さすがにまだ死にたくないし。それに、今の状況を全く把握出来ていない訳で…手錠もされているので、彼等に従うしかない。
…それにしても凄く寒い。
制服という事も合間って、かなり寒くてカタカタと体が震える。
手錠をされているので自分の肩を抱く事も出来ず、腕を胸の前に持っていき縮こまる事しか出来ない。
…なんでわたしがこんな目に。
こんな酷い仕打ちを受ける様な事をわたし…したかなぁ。
やっと現実が見えて来て、急に涙が出て来た。
目が覚めたら拘束されてて、全く知らない人がいて、だからって簡単に助けてくれる訳でもなくて…更には何も出来ないのに殺すって脅されて。
……夢なら覚めて欲しい。
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