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目を覚ました梨華は、面白いくらい俺が思った通りの反応をした。酷く動揺し、揺れ動く瞳は段々と絶望の色で染まっていった。
そして俺の言葉に全てを悟ったのか、はたまた諦めたのか、梨華は抵抗する事なく俺を受け入れた。
苦しそうに荒い呼吸を繰り返す梨華の頭を軽く撫で、ベッドから降りお目当ての物を持ってくる。
「梨華、やる事があるだろ?」
「っ、…はっ…ん、…な、に?」
「まさか、なかった事に出来ねぇよなぁ?」
「…っ!! ま、待って…や、やめて…!!」
「なら、どうする? 俺を取るか、こいつを取るか…どっちだ?」
梨華のスマホを操作し、忌々しい名前を表示させ梨華に突き付ける様に見せると、必死にスマホに手を伸ばした。その腕を引き、最後の選択を選ばせる。
本当にどこまでも邪魔で、目障りな奴だ。
これも何かの因果なのか、それとも俺への嫌がらせなのかは知らねぇが…まぁ、俺にとっちゃただのスパイスにしかならないがな。
そして俺の言葉に小さく震えながら、俺を見上げる梨華の瞳には絶望と共に涙が浮かんでいた。
「…な、っ…どう、してっ…」
「梨華が決められねぇなら俺が電話してやろうか? お前の女を犯しましたって」
「っ…やめて」
「ならどうする? なんなら、お前は強姦されたって通報したっていいんだぜ? その場合、誰も彼もが傷付いて苦しむだろうが、な?」
「…っ、わかった…彼とは、別れるから…なにもしないで」
「ふはっ、へぇ…。そんなに簡単に別れを決断出来るって事は、大して大切でもなんでもなかったんだな、そいつの事は」
「ち、違うっ…! わたしが、わたしが悪いから…あの人と一緒にいる資格はなっ…い。っ、…うぅ…」
あぁ…やっぱりテメェは吐き気がする程、気に食わねぇ奴だな。梨華を苦しめて泣かせていいのは、俺だけだ。お前にあげてやる想いも涙もねぇ。
…だが、テメェが絶望するところを見るのは酷く興味がある。
顔を覆い、嗚咽を漏らしている梨華の頭を優しく撫でながらスマホを差し出すと震える手でそれを受け取った。
震える指を必死に動かし、一文字一文字ゆっくり打ち込むと涙を流しながら顔を上げ俺を見つめた。
「どうした? 送れよ。お前が選んだんだろ?」
「…うぅ、…っ」
「ふはっ、いい子だ」
「っ、…ひど、っ…ぃ…」
「酷いのはお前の方だろ? 本当にそいつが好きで大切なら助けを求めればいい。それをしなかったって事は、そいつを信用出来なかったんだろう? 他の男に抱かれた自分を助けてくれないかもしれない、拒絶されるかもしれない、そう思ったんだろ?」
「……っ!!」
「まぁ、俺ならそいつを殺してでも…梨華を奪い返すけど、なァ?」
俺がそう育てた。
自分に自信がなくて、人を信じる事が怖くて仕方ない。否定されるくらいなら自ら離れて、逃げ出してしまう。
自分が傷付くのが嫌いで怖くて仕方ない癖に、自分のせいで人が傷付くのはもっと嫌いで…本当にわかりやすくて愛おしい。
図星だったのか、ボロボロと涙を流しながら茫然自失している梨華を出来るだけ優しく抱き寄せてやった。
…あぁ、このまま一生この腕の中に閉じ込めて置きたい。その涙も苦しみのも、全部俺だけが知っていればいい。
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