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出来た花束を満足そうに抱えて、あの人は去って行った。その後は、何も考えたくなくて必死に気を紛らわす様に働いた。無駄に仕事を見付けて動き回った。
そして気が付いたら仕事は終わっており、先輩が心配そうにわたしを見送った。
覚束無い足取りで、早く帰らなければと必死に歩いた。あの場所に戻らなくちゃ、わたしを包んでくれる彼の元へと。
「…ふはっ、そんなに急いでどうした?」
「っ!!」
気付いた時には遅かった。
強引に引かれた腕、急な力に崩れるバランス。受け止める様にわたしの体を包む、腕。
恐る恐る顔を上げれば、そこには至極愉しそうに口元を歪ませた "真" がいた。
頭が心が、激しく警告音を鳴らす。
なのに、目が離せない。
「っ、…ぁ…ま、真っ…」
「ふはっ、俺に会えた嬉しさで涙が出てるぜ?」
「っ、…ちが…離して!」
「こんな仕事場近くで騒ぎを起こしていいのか? 大人しくしてろ」
「なっ…い、やっ…」
「ふはっ、端からお前に拒否権はねぇけどな」
そして近くに止まっていた車の後部座席のドアを開け、強引にわたしを押し込むと真も乗車した。運転席には誰かが乗っていて、ドアが閉まるのを確認すると無言のまま車を走らせた。
…逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。
走行中の車から飛び出してでもこの場から逃げたかった。震える手でロックを外してドアを開けようとした。
だけど、すぐにバレた様で真が力任せにわたしの体を抱き寄せた。
「ふはっ、俺から逃げ出そうとするとは…少し放置し過ぎたか」
「っ…なんっ…離してっ! 帰して…嫌だ、帰りたい!!」
「おい古橋、予定変更だ」
「あぁ、わかった。それにしても…椎名も全く不憫だな」
「…黙れ、さっさと行け」
わたしが暴れない様に真は自分の体に縛り付ける様に後ろから、わたしを拘束した。
嫌だ、嫌だっ…やめて。
そしてゆっくりとわたしの顎を掴むと無理矢理目を合わせと、酷く優しい笑みを浮かべて目を細めた。必死に抵抗するが、力で叶うはずもなく呆気なくわたしの口は塞がれた。
せめてもの抵抗で真の舌を噛むが、それすら愉しいと言わんばかりに笑いわたしの頬に触れた。
「…お前は一生俺だけの事を想いながら苦しんでればいいんだよ」
「なっ…! んぁっ…っ…!」
「花宮、着くまでもう少し我慢してくれ」
「あ? 邪魔すんな」
「っ、んっ…うっ、ん、んっ…」
「ほら、お前が口出すから必死に声抑えちまってるじゃねぇか。まぁ、それもまた愉しいが」
「余りいじめてやるな、いや…それこそ今更だな」
なんで、どうして、そんな言葉が頭の中をぐるぐると回った。
わたしを突き放したのは、真だったはずなのに。わたしから離れていったのは真なのに。
酷く優しくわたしに触れる貴方は、一体なにがしたいのか。わたしには、わからなかった。
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