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そして今日もいつも通り、先輩と仕事をしていた。先輩が受付レジでわたしは裏で他の事をしていた時の事だった。
軽い感じで先輩に呼ばれ、レジ応援かと思い素直に向かった。しかし、わたしはレジ向こうにいる人物を見て固まった。
「あっ、久し振り〜梨華ちゃん」
「椎名さんの知り合いだって言うからさ。高校の時の同級生なんだって?」
「あっ…ぁ、…はい」
「梨華ちゃん、全然変わってないねぇ。…元気にしてた?」
「……今、まだバイト中だから」
「え? お客さんもいないし少しくらい大丈夫だよ? 久し振りみたいだし、話してきたら?」
昔と変わらず前髪で目を隠している原くんがヘラリと笑った。必死に冷静にいようとするが、心臓は激しくうるさいし体も震えている。
先輩の気遣いに素直に頷けず、どうしていいかわらないまま固まってしまう。
なんで原くんが…とか色々とわたしの頭の中を最悪の事態がぐるぐると支配していく。
痛いくらい心臓がうるさくて、胸を押さえながら裏へ戻ろうと…逃げる様に背を向けた時だった。
「あ、やっと電話終わったの? "花宮" 」
「あぁ、早く帰って来いって」
「もう新婚でもないのに、ねぇ?」
「まぁ、いつもの事だ」
原くんから聞こえた名前と、忘れるはずもない声に一瞬にして息が止まる。
激しく痛み、警告を鳴らす胸と頭にくらくらと視界が揺れた。そして振り返ったらダメだとわかっているのに、わたしは…振り返ってしまった。
そして激しく後悔をした。
わかりきっていたはずなのに、どうして逃げ出さなかったんだろう。どうして…振り返ってしまったんだろう。
そんな後悔と苦しみに歪むわたしと目が合うと、彼はそれはそれは優しく笑った。
「梨華、久し振り」
酷く懐かしい声と貼り付けられた様な笑顔に、わたしは何も反応が出来ず立ち尽くした。
そんなわたしから視線を外すと先輩にその笑顔のままで注文をした。
「それで適当に花を包んで貰えますか? 記念日なので、可愛らしい感じで」
「あ、記念日用ですね、了解しました。他に金額とか指定は特にないですか?」
「金額は特に。でも1つだけ、彼女に包んで貰いたいんですけど頼めますか?」
「お、御目が高いですねぇ。椎名さん、すっごくセンスあるから期待してて下さい。椎名さん、頼める?」
「……ぁ、っ…はい。お時間が掛かるので少々お待ち、下さい…」
必死に言葉を紡ぎ、早く帰って貰いたいが為に花を包む。
"記念日"
"可愛らしい感じ"
ぐるぐるとその言葉が頭の中を支配していく。
小さく震える指先で必死に色合いや雰囲気を壊さない様にと…1本1本丁寧に選んだ。早く納得して帰って貰う為に。
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