日常編 | ナノ
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軽く体を揺すぶられ、いつもより覇気の感じられない声で名前を呼ばれて…うっすらと目を開けると千夏が不機嫌そうな顔をしてスコアボードを抱えていた。

あー…そういえば、部活中だったっけ。仕方なく、眠たい体を起こし頭をガシガシと掻く。

うわぁ…最近、やたらと雨続きでいつもより寝癖が酷いんだよなぁ。



「ワックスならそこ」

「ん、ありがと」

「まだ健ちゃんの番まで少しあるけど準備しておいて」

「わかった」

「じゃあわたしは行くけど、二度寝しないでよ」



そう言うといつもの様に猫被りの笑顔を向ける事もなく、スタスタと花宮の元へ戻って行く千夏の後ろ姿を見つめる。

…まーた、妙な事を考え込んでるなぁ。

そして花宮と会話をしている千夏は猫被りを忘れてる訳じゃないけど、あからさまに表情が乏しい。ほぼ無表情というか、本当に気が付いてないのか…色々と酷い有り様だ。

多分、みんな気が付いてるけどあえて触れてないって感じ。あの状態の千夏は、いつも以上に扱いが難しいからね。

そして千夏に言われた通り、暫くして俺の番が来た。それをさっさと済ませて、ファイル片手にデータを書き込んでいる千夏の元へと向かう。



「千夏」

「なに? まだ終わりじゃないから寝ないでよ、次もあるから」

「うん、それは知ってるけどさ」

「じゃあどうしたの?」

「千夏、最近なにかあった?」

「…別に何も? もはや、何も無さすぎてビックリだよ」



俺の質問に吃驚した様子だったけど、すぐに無表情に戻る。

んーと、千夏の事だから嘘ではない…かな。そもそも、千夏の身に何かあったらすぐに花宮が気付くだろうし。もちろん、俺も気付くと思う。案外、そういう時の千夏は分かりやすいし。

となると、定期的に来る病み期かな。



「何も無さすぎて、病んだ?」

「健ちゃん嫌い」

「知ってる」

「…雨も嫌い」

「それも知ってる」

「なんの為にこんな日々を繰り返してんのかなって。別に、夢も希望も…なんも未来に望んでないのに何を頑張ってんだろうって」



う、わぁ…思ったより面倒臭い方向に病んでた。

いつもなら、単純に気分が落ちてて病んでる感じで…そこまで深刻じゃないんだけど、今回は何がどうしてかはわからないけど…結構沼ってるみたい。

千夏は、女子にしてはメンタルが強い方だけど…変なところで異様に脆いというか、頭が良いから余計な事を考えるというか…まぁ、たまに物凄く弱いんだよね。

だから、まぁ…こんな状態になるのは珍しくはなくて、2ヶ月に1回くらいはなんかしらで病んだりする。


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