日常編 | ナノ
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あの日の千夏は、連日から続いていた体調不良が悪化し昼過ぎに早退をした。病院に寄ってから帰ると言っていたのを覚えている。

そして病院がやっと終わったとグループLINEに連絡が来たのが4時過ぎだった。それを最後に千夏からの連絡はなく、返信もなかった。

…… 死因は凍死。
2月の寒空の下、酷く体調が悪い中…散々好き勝手された挙句そのままの格好で放置されていた。抵抗したあとも余りなかったようで、本当に何も出来ずに千夏は殺された。

"殺す気はなかった"
"そんなつもりはなかった"

そんな言葉だけで、千夏の命を奪った奴等は大した罰も受けず…今ものうのうと生きている。


「花宮いるー? 大ホシに動きあったよ」

「話せ」

「古橋には既に話しといたから。で、これがターゲットでこの日とこの日なら狙えるって」

「ふはっ…ザキの方は」

「バッチリ押えてあるって。だから、後は花宮の指示待ち」

「そうか。俺が連絡するまで待機しとけ」

「りょーかい。やっとだねぇ…長かったなァ。じゃ、戻るね」



昔と変わらずヘラヘラと笑いつつも、どこか落ち着いた様子の原は小さく手を振るとそのまま去って行った。

あぁ、長かった。
ここまで来るのにこんなにも歳月を掛けて、こんな事をする為だけに必死になって。本当に馬鹿な奴等だとつくづく思う。

就きたくもない職業について、やりたくもねぇ事をやらされて。それでもこれだけの為だけに、俺等はずっと生きてきた。そのくらいには、影響力があった。俺等のその後の人生を決めるには、十分過ぎる出来事だった訳だ。



「花宮、入るよ」

「今度は健太郎か」

「表で原に会ったよ。いつに指定するの?」

「3週間後だ」

「…だよね、知ってた。場所も?」

「原とザキが押さえた。抜かりねぇよ」

「俺の仕事はその後だしね。この為だけに検察官になった訳だし」



キッチリとスーツを着込んだ健太郎が自嘲気味に笑みを浮かべながら、ゆっくりとソファに座りテーブルに散らばる資料を手に取り…ぐしゃりと握った。

テーブルに散らばる資料は、本当なら俺の手元にあるはずのない千夏が殺された事件の資料ばかりだ。警察官であるザキと検察官の健太郎が必死に地位を手に入れて集めたものだ。

それから何年も経った今でもこの資料を見るのを嫌がる健太郎は、俺等の中でも1番嫌な部分を見て来たに違いない。もちろん、ザキも一時期かなり参ってたしな。

所詮は、綺麗事で被害者を守るフリをして簡単な方へと事を運ぶ。長引かせたくない、自分達は関係ないと、そんな奴等ばかりだと健太郎とザキは言っていた。もちろん、弁護士として色々と見て来た俺からしても腐ってる部分しか目に付かねぇくらいには、綺麗事で加害者を守る法律に嫌気がさしている。

だからこそ、意味がある。
俺は、これから未来ある加害者を守らなきゃならないからな。

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