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そして、クソみてぇな事を言っている千夏を無視しているとテーブルに置かれている俺のスマホが震えた。
画面には "自宅" の文字が映し出されいた。
「……チッ」
「ほら、 "用がない" なら早く帰って来いってさ」
「用がなくても帰りたくねぇもんは帰りたくねぇんだよ」
「あんた、本当にお母さんには弱いよね。どうせ、そんな憎まれ口叩いてても家に帰ったらちゃんと謝るんでしょ? ったく…」
図星なのが腹立たしくて、呆れ顔をしている千夏を睨むと未だに震えている俺のスマホを千夏が手に取ると、なんの躊躇もなく画面をスライドさせた。
意味がわからず、咄嗟に手を伸ばすが千夏が立ち上がったせいで俺の手が届く事はなく…千夏がニヤリと笑いながらスマホを耳に当てた。
「あっ、もしもし…花宮くんの代わりに電話に出たんですが…」
「――――――――」
「はい、急にすみません。わたし、花宮くんと同じバスケ部で…マネージャーをしている志波と申します。あの…実は、花宮くんが帰れていないのは自分のせいでして…」
「―――――」
「…わたしが体調を崩していまして、一人暮らしのわたしを放って置けないと…家まで送ってくれた上に今も必要な物を買いに行ってくれているんです。戻って来たら…すぐにでも帰る様に伝えます。わたしのせいで花宮くんを引き留めてしまって、本当にすみません…」
「――――――」
「はい…いえ、本当にすみませんでした。え、いやっ…わたしは、本当に大丈夫なので…あっ、はい…わかりました。ありがとうございます…」
…コイツ、本当にクソだな。
間違いなく母さんならコイツの嘘に騙されるだろうし、なんなら普通にコイツの心配をしているに違いない。
なんか途中で何回も "わたしは大丈夫です" を連呼してる辺りで察した。
そしてやっと通話を終わらせた千夏が物凄く疲れたと言わんばかりの顔をして、俺にスマホを突き返して来た。
「……あんたの母さん、マジで大丈夫? いや、悪い意味じゃないんだけどさ。前から思ってたけど…本当に人の事を全く疑わない人だよね」
「お前と違ってバカだからな」
「言い方な」
「バカだからあんなヤツに引っ掛かって、こんなクソみてぇな息子が生まれたんだよ」
「まぁ、それはそう。で、今日は家に帰らずに済むっぽいけど? "真くんは、そんな貴女を放って帰ったり出来ないと思うから…男の子と2人っきりは怖いかも知れないけど、信じて看病させてあげてね" ってさ、どういう事なの。なんていうか、わたしの少ない良心が痛むんだが…」
相変わらず、何処までもバカで素直な母さんに頭が痛くなる。
だが、そんな母さんを心配する様に渋い顔をしながら…罪悪感を感じている千夏に笑う。
とりあえず、今日は家に帰らずに済むならいいか。そして、目の前のノートを俺が片付け始めると千夏も再度ロッカーに向かった。
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