有能な生け贄 | ナノ
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嫌な予感はしていた。
そもそも、こんな異常な空間が安全な訳がない。

突如、形を変えた廊下と得体の知れない触手の様な肉塊が俺等に向かって迫って来た。

咄嗟に緑間を蹴り飛ばすと、触手は鈍い音と共に壁に突き刺さりうねうねと動いている。



「階段までさっさと走れ!」

「っ、わかっているのだよ!!」

「…チッ、出来るだけ避けていくぞ」

「そう簡単に避けられるモノじゃないのだよ!」

「うるせぇ、死にたくなけりゃあ意地でも避けろ」



次々と壁や床から生える様に現れる触手に、思わず眉間に皺が寄る。

…最悪は、魔術でどうにかするしかねぇか。まだ使う気はなかったが、死んだらなんの意味もねぇ。

幸い触手の攻撃は余り速くはない。ただ数が多い上に廊下って事もあって、走りながら避け続けるには限界がある。



「っ、行き止まりなのだよ!!」

「あ? チッ…」

「…どうするのだよ」

「いいからそこで、死ぬ気で避けてろ。最悪、魔術を使ってでも致命傷だけは負うな」

「無茶苦茶なのだよ!」

「うるせぇ、死にたくねぇなら従え!」



正直、この状況を簡単に抜け出せるとは思っていなかったが…まさかこんな形で閉じ込められるとは思わなかったぜ。

気味の悪い壁に顔を顰めつつ、近くの部屋に飛び込む。

ドアを確認すると青い魔法陣と共に "De falsitate" の文字に舌打ちをしながらすぐに部屋から飛び出し、未だに触手と戯れている緑間を呼び戻す。

確信はないが、あの触手は部屋には入って来ない可能性が高い。むしろ、部屋の中は今まで見て来た部屋の内装とほとんど同じで、異常なのは廊下だけだ。

…緑間をさっきの部屋に置いていった方が俺的には他の部屋を探索しやすいが、1人にするのは得策ではない。それに、相手の狙いが俺の可能性も考えると…



「おい、死ぬ気で俺に付いて来い!」

「先程から無茶ばかり言うのは、やめるのだよ!!」

「うるせぇ! 行くぞ!!」

「あの部屋には、何があったのだよ!?」

「あ? なんもねぇよ! 黙って付いて来い!」



そして目に入った部屋に入り魔法陣と言葉を確認しては出てを繰り返す事、十数回。

把握している全ての部屋を確認し終わり、唯一他の部屋と違う部屋へ戻りそのまま飛び込む。

痛む体と言葉を発する余裕もなく乱れる呼吸に、思わず膝に手を付きながら緑間を視線を向ければ緑間も俺と同じ様に必死に呼吸を整えていた。

それに、さすがに無傷とはいかず俺も緑間も体の至るところから血が滲んでいた。

…致命傷ではないが、触れただけで何かしら影響がある場合もある事を考えると…余り状況は良くはない。

だが、あの廊下の異常事態はどうにか出来るはずだ。


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