有能な生け贄 | ナノ
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あぁ、気分が悪い。
纏わり付く重苦しい空気が実に不快だ。

静かに歩を進めながら、部屋には入らずに視界情報だけを必死に集める。

2階と違うのは何も雰囲気だけじゃない様で、扉の形状、部屋と部屋の間隔等も細かく違っていた。

まず、軽く壁に触れると気味の悪い感触と一緒に僅かな熱を感じてすぐに手を離した。そして、壁を見つめるが特に見た目におかしなところはない。

この階の物には、余り安易に触れない方がいいのかもしれねぇな。正直、歩いてても靴底から嫌な感触がしてるしな。

あぁ…それはそうと既に高尾達の姿は見えなくなった訳だし、さっさと本題に入るか。



「おい、なんか気になる事があるとか言ってなかったか。わざわざ、あぁ言ったって事は俺に聞きたい事か言いたい事があるんだろ」

「…志波さん達が持ち帰ったメモについてなのだよ」

「なんだよ」

「前に志波さんが言っていたが、生け贄にわざわざ本当の脱出方法を教える必要があるのかが疑問なのだよ」

「……なんで、わざわざ俺に話した? 話し合いの時に言う事だって出来ただろうが」

「無駄に皆の不安を煽りたくはないのだよ。それに花宮さんは、メモを見るなり腑に落ちないと言う顔をしていた。思うところがあるのは、花宮さんも同じでは?」



……チッ。
ずっと最悪の可能性は考えてはいたが、まさかこいつに指摘されるとはな。

正直、そのメモが見付かった場所がシロに言われた部屋ってのも怪しい。それにシロが嘘は付けないと言っても、それが本当かどうかも確かめようがないからな。

千夏はシロを全面的に信用している様だが、俺はシロが千夏を誘導している様にも見えなくもない。それに千夏に無駄に執着している点なども含め、罠の可能性は大いにある。



「前回の事があったせいか、志波さんは自分が犠牲になる事に躊躇がなさ過ぎるのだよ。それに、今回については女性の枠が志波さんである必要はなかったはずです。本来なら3分の1の確率で志波さんになるはずですが、どうにも故意に志波さんが選ばれている様な気がして仕方がないのだよ」

「随分と饒舌だな」

「前回、役に立てなかった借りを返したいだけなのだよ」

「ふはっ、精々頑張れよ」

「それで花宮さん達から見て志波さんに何かおかしなところ等は?」

「無駄に普段通り過ぎるくらいだな」

「……逆に普段通り過ぎて、違和感があると?」

「あぁ見えてあいつは、性格はクソ悪くて強がっちゃいるがそこまで強くねぇんだよ」



俺の言葉に険しい表情を浮かべる緑間を無視して、頭の中に3階の大まかな間取りを記憶していく。

千夏を疑っている訳じゃないが、どう考えても今回は千夏だけが異質な存在でそこがどうにもこいつ的には引っ掛かると。

まぁ、悪くねぇ着眼点ではある。ましてや、俺等からしたら千夏がいる事に違和感を感じてはいるが、心の中では千夏だから仕方ないと思っていた節もあるからな。



(志波さんが操られている可能性は?)
(さぁな。ゼロではないだろうが)
(…偽者の可能性は低そうなのだよ)
(ふはっ、なんでそう思う?)
(花宮さん達が気付かないはずがないのだよ)
(…チッ、まぁ偽者ではねぇとは思うがな)
(そうじゃないと困るのだよ)
(仮に偽者だったら笑うがな)
(笑い事ではないのだよ)

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