有能な生け贄 | ナノ
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シロが千夏の額に手を翳すと虚ろだった千夏の瞳に光が戻った。

そしてパチクリと瞬きをすると物凄い勢いで原から逃れようと暴れ出して、原が殴られつつも千夏を押さえ込む。



「はっ!? なに、なんなの!? はっ!? ちょ、離せし!!」

「ちょ、狂暴過ぎなんだけど! いたっ! 痛いから! 暴れんなって!!」

「いや、はっ!? 意味わかんなっ…んぐ! んんんっ!!」

「ちょ、原それはやり過ぎ息出来ないから。千夏死んじゃうから」

「いや、だってうっせぇしいてぇし暴れるからさぁ」

「だからってよぉ…お前、本当に容赦ねぇよな」



余りにも暴れる千夏を原が力任せに押さえ込んだがいいが、それは普通に窒息するからやめろ。そして渋々といった様子で原が千夏を離すと、既に酸欠なのか息を切らした千夏がフラりとよろける。

いや、本当に殺す気か。

そんな千夏に "めんごめんご〜" とまるで悪びれた様子のない原である。まぁ、無駄に暴れた千夏も悪いがな。



「…はっ、こ、殺されるっ…く、苦しっ…」

「いやいや、千夏が暴れるのが悪いんだってぇ。ていうか、さっきまで俺の首に腕回して迫って来てたの千夏だからね?」

「っ、……え、ま、まじ?」

「ちなみに花宮も襲ってたぞ」
「うん、襲われてたね」
「珍しく花宮が焦ってたよな」

「……おねぇちゃん、大丈夫?」

「えっ、あー…なるほど? ていうか、なんで来てんだよ…死ねよバカかよ」



そしてやっと状況を理解したのか、珍しく頭を抱える千夏にシロが心配そうな顔をしながら千夏に寄り添う。

……へぇ、なるほど。
利用する為だけってワリにしては、随分と千夏にご執心だな。そもそも、あの状態の方がこいつにとって色々と扱いやすいだろうに。最悪、千夏を盾にする事も出来た訳だしな。

だが、まぁ…だからってこいつを信用するかと言われれば、する訳はないが。



「……う、わぁ…最悪だ。しかも、真と一哉とか…死にたい」

「こっちが被害者なのにキレそう」

「あっ、シロ…魔力は?」

「うん、結構回復したよ。だから、気絶じゃなくて普通に魔術で催淫効果を消したよ」

「そか、ありがと」

「無視かよマジでキレそう」

「で、どういう事か説明しろ。なに好き勝手、話進めてやがんだこのブス」

「うるせぇバカ」



とりあえず、いつもの千夏に戻った様でさっきの態度が嘘の様に俺達に悪態を吐きながら、嫌々といった感じでシロと何があったのかを説明し出した。

そもそも、俺はシロと2人っきりになるのは反対してたからな。なのに勝手に話を進めてんじゃねぇよ、バァカ。



(…約束の内容は?)
(そりゃあ秘密よ)
(…は? ふざけてんの?)
(まぁ、別に死ぬとかじゃないから)
(そんなの当たり前だろ…)
(…えーと、つまりシロは俺達に協力すると?)
(まぁ、そういう事。ね、シロ?)
(うん。おねぇちゃんと約束したから)
(ワシは、その約束の内容が気になるんやけどな)
(まぁまぁ、気にしないで下さいって)

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