有能な生け贄 | ナノ
20*(3/4)

*****

余りにも戻って来る気配がないと、2人の様子を見に行った結果がこれか。

詳しい状況はわからねぇが、シロと千夏が抱き合ってキスをしてたのはわかった。で、更には様子のおかしい千夏がシロを守る様に俺等の前に出て来たと。

……操られてる?
フラフラと覚束無い足取りで、目は虚ろ…更に顔は妙に赤みを帯びていた。

よくわからねぇがシロから千夏を引き離す為に、未だにフラフラとしたまま手を広げている千夏の腕を引くと、全く力を入れていなかったのか…勢いよく俺の胸に飛び込んで来る千夏を受け取る。

チッ…何がどうなっ…



「……んっ」

「えっ…」
「はっ?」
「なっ…」



千夏の様子を確認しようと視線を下ろした瞬間、塞がれる唇とふわりと香る千夏の匂いに目を見開く。更には、俺の首に腕を回す千夏に思考が追い付かない。そもそも、俺はまだまともに動けねぇんだよ…クソが。

そんな俺から原が千夏を勢いよく剥がすと、虚ろな目をした千夏が今度は原の首に腕を回す。

そしてすぐに千夏の口元を手で押さえて、更に逃げ出さない様に反対の腕を腰に回した。



「…なに? キス魔にでもなったの訳? つーか、なにこの感じ…なんか盛られた?」

「暴れたりしてないし…操られてる感じではなさそうだけど」

「…おい、千夏になにしやがった」

「……魔力を回復して貰ってた。それで、今のおねぇちゃんは僕の能力で催淫状態になってる」

「う、わぁっ…」
「催淫って…」
「なるほどな」



いつもの千夏なら原に抵抗するはずだが、今も大人しくしてるところを見る限り…シロが言ってる事に嘘はなさそうだ。それにあの顔は、物欲しそうな顔はまぁ…そうだな。

とりあえず、あのままの千夏を放置するのは色んな意味で良くない。だが、簡単に千夏を元に戻せるかと言ったら俺等には間違いなく無理だ。

チッ…俺等の話をまるで聞かねぇ癖に厄介な事をしやがって。そもそも、魔力供給の為って言うのも本当かどうか怪しい。千夏を操る為についた嘘な可能性もある。



「……ある程度、魔力が回復したからおねぇちゃんを治していい? すぐに元に戻せるから」

「………」

「どうすんの花宮? 正直、俺はこいつを信用したくないけど」

「おねぇちゃんと約束したから、君達に危害は加えないし協力もするよ」

「…千夏、本当に約束したんだ」

「チッ…さっさとしろ」



原が言うように正直まだ信用は出来ないが、千夏を奪い返したりしない辺り…悪意がある訳じゃなさそうだ。

とりあえず、シロに千夏が奪われる可能性もあったから原に千夏を離さない様に伝えてから、シロに顎で早くしろ訴えた。


prev / next

[ back to top ]