さよならと嗤う | ナノ
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正直、あいつ等なら別に大丈夫だろうとか、なんの根拠もなくそう思っていた。だが、それは俺の勘違いだったらしい。

激しい音と共に体育館の扉が開くと、囮として探索に出ていたメンバーが勢いよく入って来て…古橋の腕に抱かれている千夏の姿を見た瞬間、息が止まった気がした。



「緊急事態で戻った! 志波が重体だ!!」

「ねぇ、古橋…それ本当に息してる?」

「あぁ、大丈夫だ」

「報告は俺達がしておきます。原くんと古橋くんは、志波さんの手当てを」

「俺は?」

「アツシも報告だ」

「ん、わかった」



そして千夏を抱えた古橋と原がこちらに向かって来るのがわかり、自然と向かう。

途中、陽泉の連中とすれ違い古橋と原の元に着くと、千夏は古橋の腕の中で気を失っているのか目を閉じていた。

嫌でも目に入る変色した首に古橋と原を見れば、すまなそうな顔をして黙った。

とりあえず、話を聞く前に千夏を寝かせねぇとならねぇ。すぐに古橋にマットに運ぶように言ってから、救急箱を取りに戻る。

そしてマットに千夏を寝かし終わったのか、健太郎とザキが千夏の姿を見て顔を真っ青にしていた。



「…なにが、あったの?」

「…ど、どうなってんだよ! お前等が一緒で…なんで、なんで千夏がこんな状態になってんだよ!!」

「…すまない、としか言い様がない」

「おい、なにがあったか話せ。原、てめぇもだ」

「っ…わかってるよ」



思った以上に原が精神的にダメージを受けているらしく、さっきから様子がおかしい。それをわかってるのか、古橋もいつも以上に饒舌だった。

そして古橋と原から状況を聞いたが…つまり、千夏がマネキンに襲われた瞬間にその場にはいなかったのか。

古橋は福井から手を貸してくれと切羽詰まった声で叫ばれて、廊下でゾンビの相手をしていた原と氷室にも声を掛けてすぐに準備室に向かった。

そして、千夏がマネキンに襲われている場面に遭遇した…と。

それに千夏は絶対に何かあるとかなり警戒もしてたらしく、なんで襲われたのか俺等も不思議で仕方ないと言葉を付け足した。



「で、意識はあったんだな?」

「あぁ、途中で気を失ったが…。喉を痛めて声が出ない様でな…それとかなり腹部が圧迫されてたらしくお腹を押さえていてな、この通りだ」

「……っ、俺が後で内臓に異常ないか診るよ」

「で、そのマネキンはどうした?」

「あぁ…原が粉々した。そしてそのマネキンの中から鍵が出て来た」

「ん、これ」



千夏の腹部が首と同じ様に変色していて、思わず顔を顰める。チッ…本当に何してんだ、こいつ。

そしてマネキンから出て来たとう鍵を原がポケットから出すと俺へ渡してくる。

大きさからして、研究ノート紙片が入ってた箱の鍵と同じだな。つまり、また箱を見付けろって事だろう。



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