さよならと嗤う | ナノ
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真っ暗な闇の中で泣いてる子がいた。愛して欲しいと嘆いてる子がいた。

それをボーッと見つめてたら、その子が顔を上げて恨めしそうに顔を歪ませながら、わたしに迫ってきた。

羨ましい羨ましい羨ましい。
殺してやる殺してやる殺してやる。


人間とは思えない速さで、人間とは思えない顔で…わたしを食べようと口を開けていた。



「っ!!」

「わっ…びっくりした、って…千夏目覚めた?」

「……っ…、はっ…はぁ…」

「…千夏、大丈夫?」

「っ……だい、じょぶ」

「……、待ってて花宮呼んでくっ…千夏?」

「っ…やだ、行かないで、ごめん…待って、まじで…ごめん」



色々とパニックで訳もわからず、立ち上がろうとする健ちゃんのワイシャツを掴んだ。

心臓が破裂するんじゃないかってくらい、激しく動いてて…その胸を掴む自分の手が更に震えてて、もう訳わかんない。

自分が自分じゃないみたいで、中から何か出てきそうで…吐きそう、だ。

グッと胸を押さえる力を強めると、更に呼吸が苦しくなって来て涙が出て来そうになる。落ち着け、落ち着け…大丈夫、わたしなら大丈夫。



「…千夏、大丈夫…大丈夫だから」

「け、んちゃっ…」

「ごめん。ずっと無理させてたよね」

「…っ、…ちが、う」

「はいはい、わかったから。大丈夫、見えないから」

「っ、…うっ…ムカつくっ…」

「ここまでよく頑張ったね。千夏は、偉いよ」



溢れそうになる涙を健ちゃんが親指で乱暴に拭うと、ぼすんっと健ちゃんの腕の中に閉じ込められた。

だから健ちゃんは嫌い。

ちゃんとありがとうもごめんなさいも、真っ直ぐと伝えてくるから。だから、わたしの涙が止まらないのも全部健ちゃんが悪い。

わたしの泣いてる姿を見せない様にして、ぽんぽんと頭を撫でる手は大きくて優しかった。



「……落ち着いた?」

「…ん、」

「うわっ、不細工」

「健ちゃんまじで嫌い」

「うん、ありがと」

「ドMかよ」

「いや違うけど」

「知ってる」



今の顔が間違いなく不細工なのは自覚しているが…いざ言われるとムカつくのでやめていただきたい。

…ふぅ、大丈夫大丈夫。
わたしは、わたしだから。いつも通りのわたしだから。

ヒリヒリとする瞼を軽く擦ってから、パンっと気合いを入れるように両頬を叩く。



「ふっ、気合いの入れ方…」

「鼻で笑わないでくんない?」

「いや、やっぱり千夏はこうじゃないとって思って」

「それ誉めてる?」

「うん」

「なら許す」

「むしろ、許されないのは千夏の方だと思うけど」

「は?」



目を細めて優しく笑う健ちゃんの言葉に頭を傾げると同時に、凄い勢いでこっち向かって来る金髪が目に入り…思わず笑った。

ちょ、めっちゃキレてんじゃん。


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