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あぁ…もう、やだなぁ。
一哉が消えたのを確認したのか、すぐに健ちゃんが来た。
そしてわたしを見るなり困った様に笑った。
「見てたけど、原のあれは酷いね」
「トラウマになるわ」
「確かに。じゃあ俺は、どうすればいい?」
「え、普通に動かないで立っててくれればいいかな」
「そう? わかった」
なんか一哉のせいで、健ちゃんは変な事を言ってないし普通なのに、ちょっと躊躇しちゃうんだけど。ていうか、よくよく考えたらまともに自分で刺したの康次郎だけだし。
なんか、もう本当に嫌だなぁ。もちろん、やらなきゃならない事だからやるけどさ。
すまなそうに笑う健ちゃんにゆっくりとナイフを構えるが、なかなか覚悟が決まらず…そのままで固まっている。
「…やっぱり手伝おうか?」
「う、うーん…もう少し待って。頑張るから」
「いいよ、無理しなくて。それに原が悪いからね」
「結局、自分で刺したの康次郎だけになりそうなんだけど」
「古橋はほら、凄く楽しそうだったし。喜んでたからいいんじゃない?」
「やっぱり康次郎はサイコパス」
「千夏、こっちおいで」
「んー、んっ…わかった」
正直、自分で頑張りたかったけど時間を掛けると " まだかよ " と言わんばかりにこっちを睨んでいる真に怒られそうなので、素直に健ちゃんに甘える事にした。
ナイフを下ろして、ゆっくりと健ちゃんに近付く。
でもどうするんだろう。
弘みたいに真に手伝って貰う感じじゃなさそうだけど。アレかな、健ちゃんが自分を刺す感じ? いや、それはそれで力が入らないだろうし難しい気がするけど。
「じゃあ、ナイフ構えて」
「え、どうすんの?」
「んー、俺が抱き付くから動かなくていいよ」
「それ一哉と同じじゃん」
「ちゃんと位置調整するし、いきなりじゃないから。それに千夏は、ナイフを見ない方がいいんだよ」
「…そりゃあ見たくないけどさ」
「大丈夫だから、ほら構えて。花宮も待たせてるし」
いや…確かに、急じゃないけどさ。結局は一哉と同じじゃないか。
だけど、 " 大丈夫だから " とわたしの頭を優しく撫でる健ちゃんに…素直にナイフを構える。
それにしても、だから康次郎も一哉もわたしに抱き付いて離れてくれなかったのか。だけどな、抱き付いてた相手から力が抜けていくのも…かなり嫌なんだぞ。その上、消えるんだぞこのやろう。
「帰ったら駅前のパフェ奢ってあげるから、そんな顔しないでよ」
「それいっつも言うけど、連れてって貰った試しないんだけど」
「今回は約束するって。じゃ、構えててねっ…」
「……っ、健ちゃん、ありがとね」
「…いつもこうっ、素直なら…可愛い、のにっ…」
「…うるさいバカ」
…本当に躊躇ないなぁ。
わたしが返事をする間もなく、健ちゃんがわたしを抱き締め…もう何度目かわからない、感覚にギュッと目を瞑る。
そんなわたしの頭を軽く撫でると健ちゃんは、そのまま強くわたしを抱き締めたまま…ゆっくりと消えていった。
…やっぱり慣れないな。
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