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本当に容赦がない。
わたしの声は全て無視。
目隠しで前は見えない、耳を塞がれれば声も聞こえない。
そしてわたしと一緒にナイフを握る手。
「はい、キセキと海常は終わり」
「……っ、」
「お前が殺したんじゃねぇ、俺等と一緒に殺したんだ」
「あぁ、だから俺等も同罪だ」
「ほら、だからもう泣かないの」
「千夏は、俺等に無理矢理やらされてるだけだ。だから、気に病む必要はねーんだって! なっ?」
ジワジワと溢れてくる涙にみんなが必死にわたしを慰める。未だにカタカタと震える手を優しく掴み、大丈夫だよと頭を撫でてくれている…健ちゃんに更に泣きそうになる。
どうしたって、感触は無くならない。大した抵抗もなくアッサリと刺さるナイフの感触は、どうしても慣れない。
目を隠しているからこそ、何を刺しているかを見ていないからこそ…感触だけで色々と考えてしまう。
だからと言って、殺す相手を見るのはもう嫌だから…このまま目隠しをしたままでいい。
そんな事を考えているとガチャリとドアが開く音がして、次の人達が入って来た。
「次は、秀徳ね。ぶっ、高尾がドン引きしてる」
「いや、もう…強要されて殺してる感バリバリッスもん。千夏さん、大丈夫なんスか?」
「大丈夫ではないけど、殺す時は耳も塞いでるから」
「なるっほど〜。千夏さん、俺の事わかりますか?」
「…う、ん」
「こっから脱出したら遊びましょーね。俺とデートしましょ、デート!」
「…え、やだ」
「ぎゃはは! 断るんスか! ま、まじで会いには行くと思うんでよろしくお願いしまッス!」
高尾なりの励ましなんだと思った。
顔は、見えないけど…バカみたいに大口開けて笑ってる高尾が想像出来て、なんだか少しだけ楽になった気がする。
海常の連中は、口々に謝罪の言葉を口にしたから。
悪気はないんだろうけど、やっぱり俺等を殺させてごめんなと言われてる気分で、よくわからないけど…胸が苦しくて謝られる度、嫌で仕方なかった。
でも高尾は謝らなかった。
むしろ、明るくよろしくお願いしますと笑っている。
やっぱりこいつもメンタルがおかしいよなぁ。
「じゃあ、一気に順番に刺してくから動かないでねー」
「むしろ、原さんが1番怖い説」
「は? なに言ってんの? 原さんが1番優しいの間違いっしょ?」
「ぎゃはは! ま、お願いしますわ」
「古橋、耳よろしくー」
「あぁ、任せろ」
スッと何も聞こえなくなる。
不思議な事に手で耳を塞がれているだけなのに、本当に何も聞こえなくなる。自分の忙しない心臓の音だけがやけに大きく聞こえるだけ。
そしてわしゃわしゃと頭を撫でると、ゆっくりとナイフを持つわたしの手に触れたのは、多分一哉。
大丈夫と、言わんばかりにわたしの手を包む手のひらは温かくてやっぱり泣きたくなった。
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