さよならと嗤う | ナノ
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音楽室に着くと椅子に座ったまま、気を失ってる千夏を支えている氷室が目に入り…自然と走る速度を上げた。



「…おい、何があった」

「演奏後、急に気を失ったみたいなんだ。特にゾンビやニセモノに襲われたりはしてないよ」

「うん。千夏ちんが演奏中、なんも起こんなかったし」

「…ん、脈はあるし呼吸も安定しとるみたいやけど」

「それと水晶玉はどうした」

「それなら、そこに。急に千夏が気を失ったんで…まだ取っていないんだ」



氷室が指差す方に視線を移すと、グランドピアノの上にポツンと置かれた赤い水晶玉があった。何があったのかは、よくわからないが赤い水晶玉が手に入ったならいいか。

赤い水晶玉を回収して、再度千夏に近付くと千夏の異変に気付いた。

別に苦しんでる訳でも魘されてる訳でもないのに、千夏の閉じられた瞳から涙を流れていた。

さすがに氷室と今吉さんもその異変に気付いたみたいで、今吉さんが怪我でもしてるのかと確認をするが…特に大きな怪我はしていない。というか、俺と囮をしていた時に出来た傷くらいだろう。



「とりあえず、体育館に戻る。よくわからねぇが、水晶玉は手に入ったからな」

「クローンはどうしたんだい?」

「消えた。が、死んだ訳じゃねぇ」

「ふぅん。じゃ、今の内に体育館に戻った方がいいって事だよねー」

「OK。なら俺とアツシが先導をするから、マコトは千夏を頼んだよ」

「伊月と火神は、ワシと後ろや。ちゃんと付いてきぃや」



すぐに千夏を抱えて音楽室を出ると、まさかの原達と出会した。もちろん、ニセモノではない。さすがに服装まで細かく再現出来ない事は、わかっていたからな。

そして俺に抱えられている千夏を見るなり、凄い勢いで迫って来たので無視して体育館へ向かう。

ここで話してる余裕はねぇんだよ。あのクローン女がいつ現れるか、わかったもんじゃねぇ。



「えっ…花宮!?」

「ただ気失ってるだけだ。大した怪我もしてねぇ。だから、さっさと体育館に戻るぞ」

「…なら最初からそう言ってよ。心臓に悪いから」

「花宮と一緒だったんだし、大丈夫っしょ。じゃ、ちゃちゃっと戻ろっか」

「……ふんっ、なかなか良い演奏だったのだよ」

「ぎゃはは! それは千夏さんが起きてから言えってーの!」



千夏の無事に心底安心したといった表情をする健太郎と、知ってたと言わんばかりの原。まぁ、健太郎の反応が普通か。

そしてすぐに全員で体育館に向かって走り出した。



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