さよならと嗤う | ナノ
37*(4/4)



紫原に腕を引かれ、音楽室に着くと氷室と伊月と火神がピアノの前で眉を潜めていた。

あぁ、なるほど。



「それで千夏ちんには、これを弾いて欲しいんだけどー」

「楽譜貸して、すぐ弾くから」

「そ、そんな…すぐ弾けるのか?」

「楽譜見れば弾ける。それで、他に何か情報は?」

「いや、 " 時を動かしたくば、音を響かせろ " って書かれたその楽譜しかなくてね」



…なるほど。
だから、今吉さんは先に進まないって言ったのか。

周りを軽く見渡すが、確かに他に何もなさそうだ。それにこれだけ堂々とグランドピアノだけが、真ん中に置かれていれば…このピアノがキーになってるのは決定的に明らかだし。

とりあえずは、この楽譜の曲を弾くしかないかな。

それに、わたしは早く真と今吉さんのところに戻らなくちゃならないし。



「多分、ないとは思うけど…演奏中にゾンビとかニセモノが来たら、そっちで対処してよ」

「あぁ、任せてくれ。演奏の邪魔はさせない」

「それとドアは開けっぱなしにしといて。閉じ込められる可能性もあるから」

「じゃあ、俺はドアが閉まらない様にここにいればいい?」

「俺が千夏の傍にいるから、タイガ達もドアの方を頼むよ」

「おう…わかった」
「あぁ、わかった」



そして楽譜に目を通しながら、頭の中でメロディーを確認する。よく知ってる曲でよかった。知らない曲だとさすがに自信ないし。

…遠くから聞こえる爆発音に不安になる心を落ち着かせて、ゆっくりと深呼吸をする。

きっと、間違えたらダメなやつだよね。それに途中で演奏が途切れたりしても、多分ダメ。だから、集中して演奏しなくちゃならない。



「千夏、大丈夫かい?」

「大丈夫」

「マコト達なら大丈夫だ。きっと、千夏の演奏が終わったら拍手をしてくれるさ」

「別に拍手は求めてないんだけど」

「だから、マコト達にも聴こえる様に弾いてやってくれ」

「バカかよ、無茶言うな。爆発音で聴こえる訳ねぇだろ」

「聴こえるさ」



はぁ…もういいや。
なんか、どこか抜けてる(?)というかよく意味のわからない(?)氷室と話してたら緊張とかどっか行ったし。

そしてゆっくりと椅子に座り、ドア近くに待機している紫原と隣にいる氷室に合図を送ってから、わたしは…鍵盤にソッと指を落とした。

…久し振り、だな。

目を閉じて、自分の持てる限りの技術で鍵盤に優しく指を滑らせた。


2F 美術室
(…ねぇ、なんか聴こえるわ)
(んー? これピアノかな?)
(誰かが弾いてんのか?)
(あぁー、確かに聴こえるな)
(あ、これ聴いた事がある!!)
(ヨハン・パッヘルベルのカノンだね)
(へぇ、よく知ってんな)
(じゃあ、戻ろうか)
(そうね。きっとここには何も無いわ)
(なんつーか、悲しい曲に聴こえんな)
(弾き手の感情を表すからね)
(千夏、泣いてんのかな)
(あいつは泣かねぇだろ)
(根武谷は、志波さんをなんだと思ってるんだ)

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