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カタカタと僅かに震える千夏に最後の確認をして、右手でナイフを握る。その瞬間、千夏の体が強張るのがわかり…グイッと左手で千夏の頭を肩に押し当てると、千夏がギュッと右腕だけでしがみついた。
あぁ…クソ、嫌な役回りさせやがって。
「…おい、目を反らすなよ。特に誠凛の連中はな」
グッとナイフを握る力を強めて、千夏が暴れない様に左腕で拘束する様に抱き締め…ナイフを一気に引き抜こうとした。
だが、少し時間が経っているせいか…はたまたあの女の攻撃だったからなのか、簡単に抜けないナイフに…千夏が声にならない悲鳴をあげる。
ギリギリと千夏の爪が俺の肩に食い込む。だが、それ以上の痛みに襲われている千夏は、必死に痛みに耐えようと力を入れている。
…チッ。
念の為に用意していたナイフを仕方なく…腕に軽く突き立てる、こんだけ…力入れてたら抜けねぇよ、バカ。
そして傷口を抉る様にしてナイフを無理矢理引き抜くと、ギュッと力を入れ声にならない悲鳴をあげると…次第に千夏の力が抜けていった。
そして抜き取った真っ黒なナイフが弾けて消えた瞬間、原とザキがすぐに千夏の腕にタオルを押し当てる。かなりの血が出てる様で、酷く生暖かい。
「……千夏、抜いたぞ」
「っ……はっ…いっ…たぃ…ょ、ばか」
「…テメェが力入れ過ぎなんだよ、バァカ」
「っ、……はぁっ…うっ…はっ、…ごめっ…」
「いいから寝てろ。手当てはしといてやる…頑張ったな」
痛みによる汗で顔に張り付いた髪を退けて、溢れる涙を乱暴に親指で拭うと千夏は安心した様にフッと意識を手放した。
女が男より痛みに強いっていうのは、本当なんだなと改めて思った。
そして、静まり返る医務室内で最初に口を開いたのは…まさかの人物だった。
「…っ、有り得ねぇ! こいつ、こんなんなってまで…俺等を逃がしたんだぜ。ずっと…俺等は志波を疑ってたのによ…!!」
「宮地さん…」
「あぁ、そうだ。テメェ等が散々疑ってた千夏が、テメェ等が信じてた女…化物のクローンから助けたんだよ」
「で、ここまで来てまだ信じられないとか…思ってんなら、もうこっちも形振り構ってらんないから…死んで貰うけど?」
「最初から、俺等はあんた達を助ける理由も義理もなかった訳だし。むしろ、恩を仇で返されてるからね」
「……だから、テメェ等よーく考えろよ。こっちも我慢の限界なんでな」
グッタリとしたままの千夏をベッドにゆっくりとうつ伏せに寝かせ、軽く体を拭いてから手早く手当てをする。
その間、奴等は何かを話していたが…興味もねぇ。
もうずっと前から俺等の敵はわかってる。
それに千夏が必死に伝えてくれた情報がある。だから、俺等はお前等に構ってる暇はねぇんだよ。
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