さよならと嗤う | ナノ
26*(1/4)


いつの間にか寝ていたみたいで、目を覚ますと目の前には今吉さんがいた。

頭がボーッとする。

吐き気は大分治まったけど、なんか全部どうでもいいと思えるくらいにボーッとする。

…今まで何をしてたんだっけ。



「千夏、大丈夫か?」

「はい」

「でな、悪いんやけど…脇腹の傷見せて貰えへんか?」

「いいですよ」

「うわぁ…無表情。千夏さん、俺の事わかりますー?」

「高尾」

「あ、そこはわかるんスね」



今吉さんと高尾が心配そうにわたしを見ているが、何がそんなに心配なのかがわからない。吐き気も治まったし、頭もぐるぐるはしてない。

ただボーッとするだけ。
きっと疲れただけ。

そして今吉さんに言われて、ゆっくりとYシャツを捲り脇腹を見せると今吉さんの顔が酷く歪んだ。

……???

よくわからないけど、そのままYシャツを捲ったまま動かずにいると、今度は高尾が乾いた笑いを漏らした。



「ははっ…あぁ、なるほど? 怪我をすればする程ってやつッスね。蓄積系?」

「……千夏、少し触るで。ここ、痛いか?」

「痛くない、です」

「…そうか。次は、肩を見せてくれ」

「わかりました」

「うわぁ…無表情でなんの躊躇もなく脱がれると罪悪感というか、なんかこっちが辛いッスわ…」

「ここ、痛いか?」

「痛くないです」



よくわからないけど、今吉さんの問いにはしっかり答えられたと思う。今吉さんが触れた場所に痛みはないし、何も感じない。

触られてるなぁって感じ。

そしてわたしの言葉にゆっくりとYシャツを戻してくれる今吉さんは、酷く辛そうな顔をしていた…気がする。

よくわからないけど、そんな気がした。



「千夏、自分が誰かはわかっとるな?」

「……た、ぶん」

「…花宮達もわかるな?」

「……え、と…わたしが」

「ちゃう。千夏は、関係あらへん」

「……わたしが何かした気が、します」

「いや…もうまじで思考ぐちゃぐちゃッスね。今吉さん、やめときましょ」

「……せやな」



…わからない。
わたしは、多分…しちゃいけない事をした気がする。

ジッと自分の手を見つめると、段々と視界が赤く染まっていき手が真っ赤に染まった。

あっ…あ、ちがっ…

何かを拒否する様にカタカタと自分の体が震えるのがわかる。だけど、真っ赤に染まった自分の手から目を反らせなくて…息の仕方を忘れたのか息も出来なくて苦しい。



「っ!! 千夏、見なくていい。なんも見えへん、大丈夫や」

「わた、し…手が」

「大丈夫ッスよー。千夏さんの手にはなーんもなってないッスから、ほら俺の手わかります?」

「…わ、かる」

「……花宮、はよ帰って来い」

「…次寝たら終わりッスよね。多分、まともに反応すらしなくなるッスよ」



バッとわたしの目を覆う今吉さんの手と、震える手を握る高尾は酷く辛そうな声でわたしに話し掛け続けた。

あっ…またねむく、なってきた。
何も感じない、何も考えられない。

ボーッとする意識の中で、何故か酷く胸が痛んだ気がした。


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