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そしてゆっくりと深呼吸をしてから、今吉さんの方を向く。相変わらず、困った様に笑っている今吉さんはきっとわたしから話すのを待っててくれてる。
はぁ…もう、ね。
本当に趣味悪い。
「…夢の中でわたしが一哉達を殺してました」
「…そうか」
「…っ、それで真に " 千夏がニセモノだったんだな " って言われて、それで…ナイフで」
「…もうええよ、大体はわかった。俺以外で大丈夫そうなん、誰かおるか?」
「……いない、です。ちょっと自分でも自分が…何するかわかんない、んで…嫌です」
「…わかった。赤司、話は聞いてたな? 花宮達に説明しに行ってくれ。俺は千夏をシャワー室に連れてくわ」
あ、あぁ…気持ち悪い。
わたしは、殺ってない。
夢なのに未だに自分の手が真っ赤に染まっているようで、何度も自分の手を見つめては震える手に触る。
ゾンビに対してはなんの躊躇もなくハサミを突き刺せるのに、なんでこうも…違うのか。いや…わたしは殺ってない。そもそも、わたしは一哉達を刺してない。
あぁ、やだ…違うのに。
生きてた、ちゃんと生きてる。
ちゃんとみんな生きてた。
だから、わたしは何もしてない。あれは夢であって、わたしは殺ってない。
「…千夏、大丈夫や。それは全部夢で、千夏は何もしてへん。 なっ?」
「…は、い」
「ほなら、運んだるからシャワー室に行こか」
「…はい、すみません」
「ほな、行くで」
ジッと自分の手を見つめていたわたしに、今吉さんが大丈夫だと震える手を握ってくれた。
…うん、大丈夫。
わたしは殺ってない。
そして弱りに弱っているわたしは、素直に今吉さんに抱き抱えられた。もうなんか…まじで疲れた。さすがにあの精神攻撃は…キツい。
…ほんと最悪。
◆◇◆◇◆
今吉さんに抱き抱えられるわたしを見て、ざわめく体育館に何も感じないくらいには参ってた。
そしてシャワー室に着き、女性用の着替えがある場所まで来るとゆっくりとわたしを下ろしてくれた。
「大丈夫か?」
「…はい」
「さすがに手伝えへんけど、近くにおるからなんかあったら呼ぶんやで」
「…わかりました」
「ん、ええ子や」
そう言いながら頭を優しく撫でる今吉さんに、素直に甘えておく。自分で言うのもアレだが、今は精神的にかなり余裕がないし。
とりあえず今は、スッキリしたい。色々と洗い流したい。
…あー、ベッド汚いままだけど大丈夫かな。後で片付けに行かなきゃだよなぁ…さすがにアレを他の人に片付けさせるのは気が引けるし、わたしもなんか嫌だ。
そんな事を考えながら、必死に余計な事を考えない様に温いシャワーを浴びた。
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