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触れちゃいけない事だったのかもしれない。

だけど、今まで見たことがない古橋くんの表情にどうしたらいいかわからず、ただ黙ることしか出来ない。

今、口を開いたら余計な事を言ってしまうかもしれない。それにわたしの言葉が古橋くんを傷付けてしまうかもと思うとなにも言えなくなってしまう。



「みょうじは、なにも聞かないんだな」

「・・・え?」

「普通なら気になって聞いてくるだろう? なんで1人暮らしなんだとか、小さい頃からってどういう事なんだとか」

「そ、そんな軽々しく聞けないよ」

「…やっぱりみょうじは、他の奴とは違うな」



古橋くんの言葉の意味がわからず頭を傾げる。というか、本当にどうしたらいいかわからないだけだよ。

古橋くんは、なんだか悲しそうに笑ってるし。わたしは、古橋くんになんて言ってあげればいいんだろうか。

だけど、古橋くんの表情を見る限りそんな簡単な話じゃなさそうだし…



「俺は飼われている」

「えっ? か、飼われてる?」

「あぁ、世間的には親と呼ばれる者に飼われている」

「えと…なに、言ってるの?」

「俺に餌を与えてくれるだけの存在。気紛れでしつけと称して暴力を奮われる」



古橋くんは、淡々と語った。

小さい頃から虐待を受けていてそれが普通だと思って過ごしていた事。

虐待を受けていたが、それが日常で普通だと思っていた古橋くんは泣くとか悲しいとかそういった事がわからなかったと…。

そんな古橋くんを気味悪がって、親がこのマンションに閉じ込めた事などを事細かに話した。

わたしの思っていた以上に衝撃過ぎて言葉を失う。それ以上に、わたしの日常からかけ離れ過ぎていて現実にそんな事があるのかと思ってしまう。



「それで花宮に会ってお前は狂ってると言われて、やっと自分が普通じゃないと知った」

「・・・・・」

「そんな俺にみょうじは、なにも聞かずにただ一緒にいてくれた事が嬉しかった」

「・・・・・」

「今、こうして狂った俺の話を聞いてる時でさえ、この俺から目を離さずにいてくれている」



"それがただ嬉しい"といつもの古橋くんが言う。

だけど…正直な話、わたしはなにもしていない。ただ、たまに一緒にサボって古橋くんとお喋りをしていただけ。

それに狂ってるって…それは、花宮くんが言った事であってわたしはそんな風には思ってない。

それは、古橋くんの話を聞いた今でも変わらない。



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