君の視線の先に | ナノ

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そんなあたしを心配そうに見ていた長髪の男の子が、必死にぽんちょの人を止めているが、何故か、長髪の子が逆に怒られている。

ど、どうしよう。

人に会えたのは嬉しいけど、このままだと何も進展しない。

それに、ずっと雨に打たれいて大分寒い。それに服や髪も雨で泥が跳ねて、凄く汚いだろうし。

とりあえず、体が動かなくて自分で起き上がる事が出来ないので…起こして欲しい。

しかし、そこであたしは大事な事に気付いた。

・・・あたし、体が動かないって言ってない。



「あ、あの…あたし、何故か体が動かないので、とりあえず起こしてもらえないですか?」



あたしの言葉にさっきまで、言い合いをしていた2人があたしをジッーと見下す。

しかし、恥ずかしいやら怖いやらであたしは思わず固く目を瞑った。



「あんた怪我してんの?」

「えっ…いや、してないと思います」



別に痛いところは、ない。ただ、本当に体が動かないだけだ。

しかしその言葉に不審そうな顔をしているぽんちょの人に、ちょっとムッとした。

こんな状況でそんな嘘をつく訳ないじゃない。

そもそも、雨がこんなに降ってるのに、寝転んだままでいるんだから普通じゃない事くらいわかってよ。



「・・・っ、とりあえず起こして下さい。後は、自分でなんとかしますから」



ぽんちょの人の態度に泣きそうになりつつ、自分の今の状況もよくわからないし…下手に動きたくない。

いや、体は動かないんだけど。



「いや、だからあんた何者?」

「何者って…ただの一般人です」



何を勘違いしているのだか、知らないけど…あたしは、別に有名人でもなければ…ただの一般人だ。

そんなのは、一目見ればわかるはずだ。本当にそこら辺にいる一般人だもん。



「は?あんた俺様の事舐めてる?」



・・・もしかして、話が通じないのかな。

この人と会話のキャッチボールがまるで出来ない。



「誰かと勘違いしてませんか?あたし、なんでもないっていうか…ただの一般人で、あなたの事も知りません」

「・・・・。じゃあ、どっから来たの?」


・・・雨が冷たい。
とりあえず、話を聞きたいのなら起こして欲しい。ずっと雨に打たれてる訳で…もう体が痛いくらい冷たい。


「あ、あの…なんでも答えるんで…起こしてくれませんか」

「・・・・・」



露骨に嫌な顔をされた。

こっちは、寒くて冷たいし死にそうなのに。それに体が動かないって、言ってるのに。

こんなに酷い人が世の中にはいるんだなぁ…なんて思いつつ、動かない自分の体を憎んだ。



「では、某が…」

「危ないから俺様がやる。旦那は、離れてて」



・・・なにがどう危険なんだろうか。あたしの事を一体なんだと思っているんだろう。

しかも旦那って…まさか長髪の子の方が上司とかそういう感じなの?ていうか、旦那呼びって…初めて聞いたかも。

そんな事を考えていると、ゆっくりぽんちょの人があたしを起こしてくれた。

だけど、首筋には何かが当てられたままで…どちらかというと、あなたの方が危険人物だと思う。

警察に捕まっちゃえ。



「あの…出来れば雨を凌げる場所にお願いします」

「・・・・・」



文句を言いたげな顔をしながら、ぽんちょの人があたしをずるずると引きずる。

やっぱり、この人…酷い。
汚れてるから抱き抱えてくれなんて言わないけど…もう少し、優しくして欲しかったな。

引き摺られてお尻が痛いが、起こしてもらったので…文句は言わず大人しくした。


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