君の視線の先に | ナノ

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俺様の逃げ道が仮にそうだとして、

「じゃあ、真歩ちゃんの逃げ道はあるの?」



ただの興味本意だった。

てか、俺様…別に女の子を抱く事を逃げ道にしてるつもりはないんだけどね

ほら、俺様…顔はいいから来る者は拒まずって感じ?



「あった、と思うけど」

「けど?」

「・・・多分、ここにいる事が逃げ道だったんじゃないかな。よく覚えてない、けど」



・・・ふーん?

覚えてないけど、何かしたからこの時代に喚ばれたって事?

だけど、今の真歩ちゃんを見る限り特に何かしたりしてないよね。

そもそも、捌け口とか逃げ道があれば我慢なんてしないんじゃない?捌け口や逃げ道がなかったから、ずっと溜め込んでて我慢する癖がついたんじゃないの?



「真歩ちゃんはさ、本当に何も覚えてないの?」

「何もって訳じゃない。ただ、自分がどんな人間で…どんな風に生きて来たか…それを覚えてないだけ」

「他は覚えてるんだ?」

「うん。だから、未来の街並みとか…風景もわかるよ。それに幸村達の名前も知ってた」



・・・本当に自分については、名前以外の事は覚えてないんだ。

まぁ、記憶を代償にこの時代に召喚されたと言っても過言じゃないからね。

だけど、ひとつわかる事がある。それは…未来で生きていた真歩ちゃんが、強く死を望んでいた事。

もちろん、真歩ちゃんに記憶がないから…その理由を知る術はないんだけど。



「あたし、きっと…幸せじゃなくて。世界を恨んでたんじゃないかな…」

「・・・・・」

「だから、この時代に喚ばれたんだと思うの」



目を伏せて、自嘲気味に笑みを浮かべている真歩ちゃんに何も言えない。

それは、そうだ。

もし、幸せに過ごしていたなら…死にたいなんて思わないはずだし。それに仮に幸せだったとして、たまたま死にたいって思ってしまう事が起きたとしても…決して、この時代に喚ばれる事はない。

何故なら、召喚の条件は"強く死を望んでいた者"だから。



「あたし、世界から逃げ出したかったのかもしれない」

「・・・・・」

「記憶はないんだけどね。ずっと痛くて、だけどそれを誰にも言えなくて…我慢してた気がするの」



多分、記憶を消されて…真歩ちゃんの中に残ってたのは、その想いしかないんだろうね。

そんな辛い想いしか、残ってないんだったら…死にたくもなるか。

ましてや、真歩ちゃんからしたら全然知らない時代だしね。



「逃げ出したかったの?」

「わからないけど、そうだと思う。だから…別にいいかなって」

「・・・・・」

「死にたかったんだから…このまま死んじゃった方がいいなって」



そう言いながら、右肩を撫でる真歩ちゃんは今にも壊れちゃいそうなくらい小さく見えた。

きっと嘘じゃない。

いくら我慢強くても痛いものは痛いし、耐えるのにだって限界はある。だから、きっと真歩ちゃんは、右肩の痛みから逃げたいんだ。

想像を絶する痛みに何度も耐えて…死にたいもなるか。



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