ティキの名前を口にした瞬間、アズラエルさんの表情が一瞬曇ったので…どうにかいい方へと話を持っていく。
「優しいアズラエルさんなら、どうにかしてくれると思ったんですけど…」
「ふ、ふはは…そうだね。そのティキは、どうしたんだい?」
「あたしが無理矢理ベッドに寝かせて来ました。大丈夫だって言い張ってたんですけど…やっぱり心配だったんで」
「ティキからは、何か聞いた?」
「え? なにをですか?」
「いや、何も聞いていないならいいんだ。ティキは少し体が弱くてね、心配させてすまないね」
そう言いながら、張り付けた様な作り笑みを浮かべるアズラエルさん。
あたしは、何も知らない。
あたしは、何も聞いてない。
まるで、ただただティキを心配しているだけの様に振る舞う。
本当は全部知っているけど、アズラエルさんの中のあたしは何も知らない都合のいい駒でなくてはならない。
だから、これでいい。
「あたしもアズラエルさんの為に、もっと頑張ります。だから、ティキを少し休ませて欲しいんです」
「うんうん、そっか。そうだね、可愛い可愛いエルナのお願いだしねぇ」
「あたしに出来る事ならティキの代わりになんでもやります! それに、もっとアズラエルさんの役に立ちたいです」
「んん〜! 本当にエルナは、いい子だねぇ。じゃあ、僕に付いて来てくれる?」
「はい!」
アズラエルさんの言葉に精一杯の笑顔で頷く。
あたしの言葉で気分を良くしたのか、ニコニコと嬉しそうな笑みを浮かべているアズラエルさんに少し胸が痛むが、嘘を付いてるのはアズラエルさんも同じなんだから…気にする事はない。
・・・演じろ。
アズラエルさんを信じて役に立ちたいと健気に頑張る子を。
そしてアズラエルさんの後を付いて行くと、医務室の前で待つように言われた。
ティキの薬でも用意してくれるんだろうか。いや、さすがにまだあたしに薬を渡したりはしないかな。
「お待たせ。この薬をティキに渡してくれるかい?」
「え、あっ…はい!」
「それで、僕から指示があるまでは休養って事で安静にしている様に伝えてくれる?」
「わかりました!」
「あ、ティキに薬を渡し終わったら僕のところに戻っておいでね」
「はい、わかりました。すぐにティキに渡して来ますね!」
すぐにアズラエルさんに頭を下げて、ティキの元へと急いだ。
ていうか、あっさり信用されちゃったよ。まさか、薬を渡してくれるとは思わなかった。ティキに医務室に来るように、って伝えてくらいの事を頼まれると思ったんだけど。
部屋に戻りながら渡された薬を確かめるが、今までに見た事のない錠剤で…酷く不安を感じた。
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