あぁ、ジローちゃんの気持ちがよくわかった。
目の前で必死に慣れない銃を千石くんに向けながら逃げろと叫ぶ裕次郎に胸が痛くなる。
ごめんね、ジローちゃん。
目の前で逃げろって言われるのがこんなに辛いと思わなかったよ。
「わかちゃん、このロープ切って」
「…は?」
「いいから」
「…わかりました」
あたしの言葉にわかちゃんは、ゆっくりとあたしを下ろすとポケットから支給品の小型ナイフを取り出し、あたしの腕を縛っているロープを切った。
まだ手首がかなり痛む…けど、そんなのは気にしてられない。
わかちゃんが持って来てくれたあたしのリュックから2丁拳銃を取り出して裕次郎の前へ飛び出し、千石くんに向かって銃を向けた。
「…まさか璃亜ちゃんにそんな物騒な物を向けられるとは思わなかったよ」
「裕次郎、あたしも戦うから。逃げろだなんて言わないで」
「で、でも…やー」
「でもここから離れつつ戦わないとならないから…」
千石くんは、アサシンで…あたしのクイーンの印を使う為に仲間を呼んでたからここに長居するのは危ない。
…クッソ。
銃を持つ手が震える。
でもここで千石くんを止めないと…裕次郎とわかちゃんが更に危険な目にあってしまう。
しかも千石くんは、あたしに銃を向けられているのに全く焦った様子もなく余裕そうだ。
それもそうか…千石くんは、既に南くんや東方くんを殺してるんだもん。
「…っ!日吉!走るさー!!」
「えっ…わっ!?」
「…チッ、だから逃がさないってば」
「らー撃て!当てなくてもいい、逃げるさー!」
「くっ…!」
「…いくら動体視力がいいからって、ショットガンを避けるのは無理があるのでは?」
急に裕次郎があたしを抱えるとその場から離れた。それを確認するとわかちゃんが容赦なく千石くんに向かってショットガンを放った。
それにたまらず足を止める千石くん。それをわかっていたと言わんばかりにわかちゃんが更にショットガンを放ち、すぐにあたしと裕次郎を追って来る。
そして何度か弾丸が飛んで来たが、諦めたのか暫くして銃声は聞こえなくなった。
しかし、裕次郎は暫く足を止めなかった。そしてやっと足を止めた裕次郎は、ゆっくりとあたしを下ろすと周りを警戒しつつ地図を確認し始めた。
「…やーの言ってた小屋から随分と離れたさー」
「それは仕方ないです。それにあのまま小屋に向かっても危険でしたし」
そんな2人に安心したのか今更になって恐怖が一気にあたしを襲って来て、体が震える。
…あぁ、情けない。
自分が銃を向けられるより向ける方が怖いなんて思わなかった。
…鬼とこんなに違うのか。