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…あぁ、ダメだ。
色々な事が一気に起こり過ぎて、心も体も限界に近かったあたしはペタリと座り込んでしまい、持っていた銃が音を発てて手から滑り落ちた。
その音にバッとこっちを振り返る2人に気付かず、体を震わせながらただ呆然と座っていた。
「…璃亜さん」
「…わんが周りさ見とく。やーは、璃亜に状況説明してやってくれ」
「…わかりました」
ゆっくりとわかちゃんが近付いて来るのがわかる。だけど、顔を上げる気力もない。
むしろ、あたしを助けてくれたわかちゃんと裕次郎を怖いだなんて思ってるあたしは最低だ。
…あたしを助けてくれたのは、クイーンの印を千石くんに取られたくなくて、2人もクイーンの印が欲しいから助けたんじゃないかとか、最低な考えが頭の中を巡る。
そんな事をぐるぐると考えているとフワッと何かが肩に掛けられたかと思ったらわかちゃんに抱き締められて自然と体が強張った。
「すぐに信じろとは言いません。ですが、俺と甲斐さんは璃亜さんの味方ですから」
「…わかっ…ちゃん…」
「正直、璃亜さんがクイーンだとかどうでもいいんですよ。ただ、助けたかったから助けただけですし」
「あ、あたしっ…」
「何も言わなくていいですよ。だから泣かないで下さい」
壊れ物を扱うかの様に優しくあたしを抱き締めるわかちゃんに更に涙が出る。
あぁ、もう本当に最低だ。
全然体の震えも止まらないし、涙も止まらない。だけど、わかちゃんはあたしが落ち着くまでずっと抱き締めてくれていた。
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忍足さんと向日さんとはぐれて、跡部部長に小屋に戻るように言われて移動している途中で比嘉の甲斐さんと会った。
会うなり銃を向け合うというなんとも言えない張り詰めた空気になったが、俺から銃を下ろした。
俺は、この人がナイトだという事を知っていたからだ。しかし、ナイトと言うだけで俺を殺さないとも言い切れないので警戒はしていたが、甲斐さんもなにかを察したらしく銃を下ろしてくれた。
そして特に何も言ってないのに甲斐さんは、自分がナイトで璃亜さんを探していると言い出した。
素直と言うより、馬鹿正直な人だと思った。
確かに、俺と違ってナイトである事を知られたところでアサシンから狙われる確率は変わらないだろう。
だからってこう素直に言われてしまうと拍子抜けだ。それにここまで素直に言われてしまうと自分もジョーカーだと言った方がいい気がしてきてしまう。
全く…本当なら跡部部長だけにして置きたかったんだけどな。
そして甲斐さんにジョーカーである事を説明し、リストバンドの裏に隠してあるバッジを見せた。
しかし、配役について詳しくは話さなくていいと言われアサシンについては言わなかった。正直、俺も言いづらかったからよかった。
そして2人で氷帝の小屋へ向かっている途中で千石さんに押し倒されている璃亜さんを見付けた。
結果、無事に助けられたが…璃亜さんは体を震わせながら地面を呆然と見つめていてとてもまともに話せる状態じゃなかった。
正直、なんて声を掛けていいかわからず…思った事を言った。そして涙を流しながら必死に何かを伝え様とする璃亜さんを抱き締めると璃亜さんの体が強張り、少しだけ怖かった。
しかし、その後は特に嫌がる素振りはなくただ俺の腕の中で声を殺して泣いていた。
いつも強気でヘラヘラしてるだけあって、精神的にも肉体的にもかなり追い詰められていたんだろう。