後ろから舌打ちが聞こえて、ジローちゃんを諦めた様だ。これでジローちゃんは、とりあえず大丈夫だろう。
「…やってくれるねぇ。さすが璃亜ちゃん、予想の斜め上を行くね」
「は?あたしよりジローちゃん狙いだったクセに」
「あ、そこまでバレてるの?アハハ、参っちゃうね。まぁ、なら…自分の立場わかってるよね?」
その言葉にあたしは、返事をしなかった。
…あたしとジローちゃんを襲ったのは、千石くんだ。ニコリと笑う千石くんに言い表せない、感情が湧いた。
そしてあたしは、腕をロープで縛られ、千石くんに担がれながらその場から離れた。
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西の中心部。
緑山の季楽と羽生は、鬼ではない者から必死に逃げていた。
「どうするの?」
「別にどうもしない。拓馬がアサシンなのかはわからないけど、俺等を殺そうとした事には変わりないでしょ」
「そうだけど…。航と純ちゃん、死んだのかな」
「そうなんじゃない?茜は、まだ合流してなかったからわからないけど…」
既に死亡している高瀬と合流をしていなかった津多を除いた、季楽・羽生・北村・昆川は最後に来た源に襲われたのだ。
近くにいた北村と昆川は、回避する暇もなく源のグロック18に撃ち抜かれた。
それに気付いた、季楽と羽生はその場から逃げた。そして逃げる途中、数発掠りはしたが無事に源を撒いたところだ。
「ねぇ、季楽はアサシンじゃないよね?」
「なんでそんな事聞く訳?」
「だって…逃げる時に俺の腕引いてくれたし、アサシンじゃないのかなって」
「仮にアサシンじゃないって言って信じる?あの拓馬を見た後でさ」
「し、信じるよ!だって、今の季楽…泣きそうな顔をしてるもん」
羽生は、悲しそうに笑うと自分のリュックを季楽へと押し付けた。それは、俺はお前を信じてるから…お前も俺を信じてくれと言っている様にも見えた。
季楽は、自分達の中にアサシンなんていないと思っていた。人数的に緑山の誰かがアサシンになるのは確率的に低かったからだ。
だからこそ、集合を掛けた。
しかし、その結果…北村と昆川は源に殺されてしまった。
自分が集合を掛けなければ、あの2人は死ななかったかもしれないと責任を感じつつ、誰を信じていいのかわからなくなっていた。
「俺さ、拓馬はアサシンだと思うんだよね。それで、他の奴等に殺されるならって俺等を襲ったんだと思う」
「・・・・・」
「だってさ、俺がアサシンだったらそうする。それで季楽達を殺したら俺も死ぬ。全員で帰りたいって思うけど無理だと思うし。それに拓馬は、そういうヤツじゃん?」
長い間、一緒に過ごして来たからこそ羽生には源の気持ちがわかった。
いつもおちゃらけてて、ふざけてばかりの源だが誰よりも仲間思いだった。
「ん、わかってる。だってあいつ、航と純を撃った時にごめんって言ってたからね」
「ホント、バカだよね。まぁ、俺等も逃げちゃったけどさ」
「だけど、アサシンの拓馬も一緒に帰れる方法って鬼を全滅させるかクイーンを殺すしかないからね」
「多分、10日間生き残るのは無理だしね。正解かどうかはわからないけど、やっぱり拓馬らしいなぁ」
そう苦笑いを浮かべながら羽生は、目を伏せた。
緑山は、元々他校との交流がほとんどない。それ故に他校を信用するのも信用されるのも難しい。
だから、10日間生き残る可能性は低かった。それをよくわかっていたからこそ、季楽も羽生も源を責められなかった。
「ねぇ、一斗」
「ん、なに?」
「ありがと。これ返す」
「確認しなくていいの?」
「必要ない。お前は、俺と生きて帰るから」
「そっか。なら、茜ちゃんも探さないとだね」
季楽の迷いは、なくなった。
季楽は、羽生と津多と帰る事を心に決めた。
そして今も苦しんでいるであろう源を救ってやらなくちゃと胸の中で覚悟を決めた。
【緑山 北村航 死亡】
【緑山 昆川純平 死亡】
残り69名