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それにしても跡部さんが太陽なら、俺は月か。なんていうか、相変わらず独特な感性をしてるな。まぁ、確かに俺は太陽って柄ではないからな。
「ていうか、あたしの中で日吉くんは月ってイメージが強くて」
「なんでだ?」
「初めて会った時に暗闇のプールの中で月明かりに照らされてる日吉くんが綺麗だったから?今思えばあの時、日吉くんに惹かれたのかも知れないなぁ」
「なっ…」
「月から降りて来た王子様みたいな?いや、でもびしょ濡れだったっけ」
「…っ、唐突に変な事を言い出すな」
「あ、照れた?でもね、こんなに月が似合う人っているんだなぁって本当に思ったよ。滝さんも似合うって言ってたし」
なまえのまさかの言葉にバッと横を向けば、へへっなんて嬉しそうに笑うなまえに思わず、額を押さえる様にして顔を隠した。
前から思ってたが、素直過ぎるのも考えものだな。いや、俺が思った事を言ってくれた方が嬉しいと言ったからかも知れないが…もう少し手加減をしてほしい。
それにしても、まさか滝さんとそんな話をしていたとはな。
・・・・・・。
「じゃあ俺が月ならなまえは、人魚姫だな」
「人魚姫?」
「あぁ。ちなみに俺がなまえの事を魚みたいだと言ったら、それなら人魚姫だと言われてな。妙に納得した」
「じゃあ、あたしは日吉くんを殺せないから海の泡になっちゃうのかぁ〜」
「そんな事ある訳ないだろ。そもそも、俺は命の恩人だろうがなまえ以外の女に興味ないからな」
「…じゃあ、あたしは月の王子様と結ばれて人間になれるって事でいいの?」
…そこまで深読みするな。
少しだけ不安そうな顔をしながら頭を傾げているなまえが可愛くてついついイジメたくなるが、嘘は言いたくないので当たり前だと答えた。
そもそも、王子を助けたのは人魚姫だしな。まぁ、仮に他の女が命の恩人だとしてもそいつを好きなるつもりはない。ましてや、なまえを泡にする気もない。それに声が出なくても俺は、なまえなら別に構わないからな。
そんな事を考えているとさっきまで不安そうな顔をしていたなまえが今度はうっすらと顔を赤くしていて、不思議に思っていると思いっきり顔を反らされた。
・・・今度はなんだ?
「ひ、日吉くん…サラッと爆弾発言し過ぎっ…!」
「なにがだ?」
「だ、だって!嬉しいけどっ…」
「あぁ…、でも嘘は言ってない。それに言い出したのはなまえだろ?」
「そ、そうだけど!」
「そもそも、俺はそんな軽い気持ちで付き合ってないぞ。まぁ、ちゃんと言うのはもう少し先になるだろうが」
「日吉くんって…たまに不意打ちして来てズルい。眠気覚めちゃったよ…」
はぁ…顔が熱いっ!なんて言いながら頬を押さえているなまえにそのまま言葉を返してやりたい。毎度、無自覚でやってるなまえの方がズルいからな。
そしてはうあう言いながら頬を押さえているなまえに笑いつつ、その手を取り家まで送った。
まぁ、とりあえず…俺の中で人魚姫の結末は既にハッピーエンドで決まってるって事だ。
(じゃあ…ちょっと寄ってく?)
(…?どこにだ?)
(あたしん家)
(っ…そういうのはな、まだ心の準備が)
(大丈夫大丈夫。知ってるから)
(何が大丈夫なんだ!?)
(あたしの彼氏はかっこよくて優しいよ〜って言ってあるし)
(余計にハードルを上げるな!)
(それに母さん、会いたがってたし?)
(ご、後日改めて行かせて貰う)
(ははっ、わかった。言っとく)
(ちなみにその日にうちにも来て貰うからな)
(えっ…日吉くん家に?あたしが?)
(当たり前だろ)
(は、反撃された…)
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