君の声が聴きたい (1/4)
あの日の事は、本当に切原くんや仁王先輩・柳先輩に感謝している。練習試合が終わった後に何度も頭を下げたけど、正直感謝し切れない。
それでもネットでは、女優のナマエが氷帝か立海の生徒だとかテニス部に恋人がいるだとかある事ない事、色々な噂が広まってしまった。
さすがにいつも優しいマネージャーにも説教をされてしまった。元から正体を隠しているので色々と行動には気を付けていたんだけど…さすがに今回の事は、あたしが余りにも軽率だったと反省した。
「ナマエちゃん!」
「あっ、お疲れ様です」
「ははっ、本当に撮影中以外はそんな感じなんだね。噂には聞いてたけどギャップヤバいね」
「す、すいません…」
「いや、いいと思うよ。それにお高く止まってる女優と違って俺は好きだな」
「そう、ですか…」
…きょ、距離が近い。
彼は、モデル出の人気俳優のRyoさん。バラエティーにも出ていて老若男女関わらず絶大な人気が有る凄い人だ。
だからと言っては、おかしいけど…少しだけ怖い。人気がある人程、スキャンダルされる確率が高いからだ。もちろん、失礼の無いようにお話はするけど…余り関わりたくない。
それに事務所やマネージャーから他の芸界人とは、プライベートな関係は持ってはいけないと釘を刺されている。
「まぁ、今日から1週間よろしくね?空き時間も結構あるから仲良くしてね」
「…は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「ははっ、そんなに畏まらなくてもいいよ。それに俺、ずっとナマエちゃんと一緒に仕事したかったんだよね。だから、嬉しいよ」
「…ありがとうございます」
あ、マネージャーが呼んでるからまた後でねとソッとあたしの肩に触れるとRyoさんは、笑顔で去って行った。
・・・・。
マネージャーの話だと…今回のオファーはRyoさんがあたしを推薦したかららしい。しかも、毎年恒例の夏の特別ドラマの主演がRyoさんという事でかなり注目が集まっている上に、その恋人役があたしという事でプレッシャーが凄い。
それに長期の撮影はよくあったけど、1週間ぶっ通しの撮影は初めてで少し不安だ。ましてや、山奥のバンガローで泊まり込みなので…どうしても人と関わらなくちゃならない。
「ナマエ?どうかしたの?」
「槙野さん…」
「そんな不安そうな顔しないの。大丈夫よ。私が付いてるわ」
「…はい」
「まぁ、今回は幽霊役だからそのくらいのテンションでもいいんだけどね。ほら、移動よ」
そう言いながら眼鏡越しに目を細めて笑う槙野さんは、あたしのマネージャーだ。お姉さんみたいにあたしの面倒を見てくれて、とても優しい人だ。
そんな事を思っていたらほらと槙野さんに手を差し出されて、ゆっくりと槙野さんの手を取り立ち上がると頑張りましょうね!と背中を軽く叩かれた。
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