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そして何度か人と擦れ違った気がしたけど、人と擦れ違う度に切原くんがもう泣くなよとか目が腫れるぞとか声を掛けられたせいかジャージを被っている事を不思議がられずに女優のナマエだと気付かれずに済んだ。



「うむ、来たか」

「準備は出来とるぜよ」

「あざっす!みょうじ、もう大丈夫だぜ」

「わっ…あ、柳先輩に仁王先輩…あのっ…」

「安心していい、既に赤也から話は聞いている。それに外は未だに騒がしい上にみょうじの服装が出回っているからな。ここなら安全だ」

「ほれ、変装グッズ貸しちゃるからこっち来んしゃい」



何がなんだかのあたしに大丈夫だと薄く笑う柳先輩に安心したのも束の間、グイッと仁王先輩に腕を引かれてパイプ椅子に座らせられた。

そして手慣れた手付きであたしにメイクやらウィッグを装着している仁王先輩に、ここが練習試合に来た立海テニス部の控え室だという事を教えてもらった。

しかも練習試合を途中で抜けてまでここであたしを待っていてくれたと聞いて、余りにも申し訳なさ過ぎてうつ向く。



「これ、気にしなさんな。それに抜けて来たって言うても試合中に抜けて来た訳じゃなか」

「・・・・?」

「タイミングよく休憩中じゃったんじゃよ。それに可愛い後輩から助けてくれって必死にメールが来てのぅ」

「ちょ!に、仁王先輩っ!!」

「まぁ、お前さんは俺等に話を合わせてくれればなんの問題ないナリ。ほれ、出来たぜよ」

「うむ、相変わらずお前の変装スキルには感心させられる。しかし、これなら問題ないだろう」



そう言いながら笑う柳先輩に頭を傾げていると満足気な顔をした仁王先輩が手鏡を差し出してくれて、不思議に思いつつ鏡を見るとそこには仁王先輩と同じ銀髪でどこか仁王先輩に似ている顔になっていた。

え?この短時間で仁王先輩は、一体どうやってこんなメイクをしたんだろう?も、もしかして…仁王先輩ってプロのメイクさんよりプロなんじゃ。

それにしても、確かにこの変装をしていればナマエだとバレる事はないと思うけど…

と、鏡の中に映る仁王先輩にどこか似ている自分を見つめながら思っていたら仁王先輩に腕を引かれて、椅子から立ち上がる。



「今からお前さんは、俺の従姉妹って事にするから適当に話を合わせんしゃい」

「え?」

「さすがにみょうじがナマエだから連れて来たとは、説明出来ないだろう?それに赤也のクラスメイトのみょうじだと説明しても不思議に思われる。しかし、誰かの親族なら怪しまれる事もない上に学校生活にも支障は出ないから安心していい」



そう言いながら、薄く笑う柳先輩はゆっくりと開いていたノートを閉じるとさすがにそろそろ時間がマズイので行くぞ。と部屋から出て行った。

それに続く様に仁王先輩に腕を引かれて、あたしも部屋を出た。

そして何故か、不満そうに頬を膨らませていた切原くんの頬を仁王先輩が突ついていた。


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