今日の俺はおかしい (1/4)
あの日以来、たまにプールに顔を出すようになった。とは言っても、部活が終わった後な上に明かりは付いていないので相変わらず真っ暗だ。
「日吉くんって実は、かなりの物好き?」
「なんでそうなる」
「普通に考えてこんな暗闇のプールに来ないでしょ」
「それを言うならこんな暗闇のプールで泳いでるヤツも大概だけどな」
「ははっ、確かに」
相変わらず、綺麗に水の中を踊るように泳いでいるみょうじを見ていると不思議な気分になる。月明かりに照されたプールで泳ぐみょうじは、昼間の教室で見るみょうじとは大違いだ。
まさかに水を得た魚の様に生き生きとしている。
そして一通り泳いだのかゆっくりとこっち向かって泳いで来るみょうじは、水面から顔を出すとニコリと笑った。
「そういえば、あたしがここに忍び込んでるの誰にも言わないでくれたんだね」
「…元は水泳部専用のプールなんだろ。それに気付かない警備のヤツが悪い」
「ここちゃんと管理されてるけど、基本的に見回りには来ないんだよね。まぁ、水泳部は人数不足て活動停止中だからだと思うけど」
「だからって玄関の鍵は掛けておけよ。もしかしたらって事もあるだろ」
「その結果、日吉くんに見付かっちゃったもんね」
バサッとプールから上がるとゆっくりと俺の隣に座るみょうじからプール特有の消毒の匂いがする。
そして体育座りをしながら天窓を見上げるみょうじの髪からぽたぽたと水が滴り落ちていくのを見ているとゆっくりとみょうじがこっちを向いた。
ちなみに俺は、もちろんながら制服だ。なので濡れない様にとみょうじが用意してくれたビニールシートの上に座っている。
「見てるだけでつまらなくない?今度、水着持ってくればいいのに」
「別に俺は、泳ぎに来てる訳じゃない」
「じゃあなんで?あ、あたしの監視とか?」
「…お前の泳ぎを見てるのは嫌いじゃない」
「え?」
「…っ、いいから泳いで来い」
「え、うん!行ってくる」
…俺は、一体なにを言っているんだ。そんな俺の言葉を聞き取れなかったのかみょうじは、頭を傾げながらもゆっくりとまたプールに入って行くとスーッと泳ぎだす。
水泳について俺は、詳しくはないが…みょうじの泳ぎが普通のヤツの泳ぎと比べてとても綺麗なのはすぐにわかった。
正直、それが水泳に必要なものなのかはわからないが…みょうじの泳ぎはそれくらい綺麗だった。
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